『根付』
☆宇田☆


お祭りの夜、神社の裏で拾ったの。
ぱっと見には表面はツルツルのピンクの可愛い貝。
家に帰って良く見たら、すっごく精巧で驚いた。
ちょっとだけ開けてる口の中に建物。
中に人影まで見えるほど超細かく彫ってある。
ちゃんと繋ぐ用の穴も開いてるから、これは絶対何かの飾り。
ステキなもん拾っちゃったよ、ラッキー。
そう思って、早速自分のケータイに取り付けた。
そしたら、翌日、目ざといおばあちゃんに見咎められた。

あんたにしちゃシャレたもんを…と思ったら、こりゃ根付じゃないかえ。
しかも、随分な値打ちもんと見たよ。
ほら、この彫りをご覧、見事なこと。
これは貝が夢見た時に吐く息に宿る幻、蜃気楼の意匠さね。
ちゃんとした職人が精魂込めて彫ったもんに違いない。
ところが、あんたにゃ、こんなもんを買えるほどのお金は持たしてないし、
これを見抜くような目も無いはずだ。
てことは…。
誰から貰った?
それとも、拾ったもんをネコババしたか。
さあ、きりきり白状おし。

きっちり叱られ、話の流れは、じゃ交番に届けなさい。
でも、可愛いし気に入ってるし、返したくない。
だから、一計を案じて、
お祭りのあった神社の社務所にだけ、こんな風に届け出た。
>可愛い貝型の根付、拾いました。
>心当たりの方はその画像かイラストを下記のアドまで送って。
>それで照合できたら、直接お返しします。

数日後、落とし主が現れた。
返すことになって、待ち合わせ場所に行ったら、
意外なことにイケメン男子。しかも、超ツボ。
根付なんて骨董品、年寄りしか持たないってのは、あたしの偏見?

彼はあたしにすっごく感謝した。
お祭りの日、せっかく着た浴衣に合わせようと、
おじいさんに内緒で秘蔵の印籠を持ち出した。
そしたら落として、根付けだけどこかに飛んでった。
家に帰って謝ったものの、
印籠より根付の方がずっと良い物なんだと大目玉食らって、
探し出さないと縁を切るとまで言われて、どうしようかと思ってたって。

それがきっかけで、あたしと彼は付き合い始めて、
1年たった今、こうしてお祭りに一緒に来てる。
2人とも今日は浴衣に下駄でお揃い。
うちわを手に並んで歩いて、夜店を冷やかして。
うふふ、幸せ。ハートいっぱい。
でも、今日の彼が持ってるのは小銭入れとあたしの作ったビーズのストラップ。
それを根付と印籠みたいに結びつけて、腰にぶら下げてるってわけ。
これくらいが分相応だよって笑いながら。

そして、問題のブツを持っているのは、
本来の持ち主であり、かつ、今うちのおばあちゃんとデート中の彼のおじいさん。
あちらも去年の事件が縁で仲良くなって、
今日は2人で浴衣着てご本尊に手を合わせてる。
茶飲み友達さ、なんて、おばあちゃんは言ってたけど、そんなのきっと照れ隠し。



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今回はちょっと難しかったです。
根付って、宇田みたいな和風愛好者や骨董好きにはすぐ通じますけど、
そういうものに興味の無い人には縁遠い品ですし、
ピンからキリまであって、骨董的価値や形状説明をしても、
ピンと来ない場合も多いでしょうし。
しかも、ヘテロ恋愛風味SSっぽいものにしたかった、
という無謀な野望もあったので。
その上、登場人物も4人だしなー。

…と反省しきりですが、初のお年寄り登場SSってことに免じて、ご容赦を。




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