「アキラ、くすぐったい・・・・」
「・・・・・なにがです?」
「・・・・・・・手」
伝い、綴る。
の肌を。
肩口に、胸元に、脇に、乳房に、降るように残された証を。
「・・・・・・・アキラっ・てば・・浴衣着られない・・・」
時刻は深夜を回っただろうか。
障子紙がぼんやりと月明かりを染み込ませ、その白が夜目にゆらりと浮き上がる。
傍らにちらとも乱れのない布団が一組、掛け布団を軽くめくったままで、二人の側に寄り添うように敷いてある。
フロから上がり、部屋に戻ると、いつでも寝られるようにと布団が敷かれていた。仲居の姿は見当たらず、もまだ風呂から戻って来ていなかった。
並んだ二組の布団を視ると、どうにも情欲に急き立てられる。
しかし、アキラは、わざとそんなそぶりを見せないように振る舞う。
むしろ、何もかも解放されるのは、けだるさの残るその一時。
軽く湿った火照りを残す、の肌の吸い付くような感触が何より、心地いい。
求めていたもの。
は、乱れ、散った浴衣の裾を引き寄せ、羽織ろうとするが、じわり、とアキラの手が這い寄り、浴衣を掴み、引き落とす。
は、繰り返されるこの行為にどうする事も出来ず、困った顔でまた同じ行動を繰り返す。
アキラも、至極冷静に、の行動を遮りつつ、そして。
指の腹で、紅い痕を、さらさらと、伝い、綴る。
は、想う。
小さな子供みたいだ。
赤い顔でアキラを軽く睨む。
アキラが無表情のまま、ぽそりと言った。
「見えないんですよ・・・」
「・・え・・・・・?」
「・・・・だから、じっくり視たいんです」
「・・・・・・・・・」
「・・・・気で感じるあなたの顔の造形、胸の膨らみ、腰の線、・・・・手の先から、足の先まで、確かめたいんです」
「・・・・・何を?」
聞くのが、怖い気もした。
真面目に聞いていたら、はぐらかされる。そんな気がして。
なのに。
性分から、自然に問うていた。アキラはそれを無表情のまま受け止めて、無表情のまま応えた。
「あなたの全てが、私のものであるという事を」
こんな時。
視線の奥を探る事が出来ないのが、少し、辛い。
の沈黙を、どう受け止めたのか、口の端でひとつ笑うと、半身を起こし、今し方の肩から引っ張り降ろした浴衣の襟を持ち、広げて整えた。そして、を視た。いつもの、皮肉な笑顔で。
「・・・・・・・着せてあげます。袖を通して」
「・・・・・・・・・」
はそれには返事をせず、だが言われるままに手を伸ばし、アキラが支える浴衣の袖に腕を差し入れた。
流れるような動作での体を包み、胸元で浴衣の襟を合わせ、傍らの腰紐に手を伸ばす。
軽く抱きしめるような格好でを包み、くるりと腰紐をその細い腰に回した。軽く括り、襟の合わせ目を整えてから、再度腰紐をきつく結ぶ。
嫌だ、と、は思った。
「脱がせて」
「・・・・・・?」
「帯、解いて。早く」
アキラは怪訝な表情で問うような仕草をするものの、の切羽詰まった口調に押され、今し方括った腰紐を緩め、解いた。
浴衣の襟の合わせ目から、暖かそうな膨らみが顔を出す。
「触って」
「・・・・・・・」
アキラは、すぐには動かない。目の前のの真意を探るかのように、の顔を視つめる。
閉じられた瞼の奥に、今、何が在るのだろう。
は、今すぐにでもアキラの頭を抱え込み、きつく抱きしめたかったが、許しが欲しかった。
アキラから、請うて欲しい。
「・・・・・・・・アキラ」
「・・・・・・・・何処を?・・・・・・・・何処からがいいんです?」
問いながら、再びの気の高ぶりが訪れた事を示すかのように、アキラが少し息を呑んだ。
それを受け止め、熱く吐いたのは、。
「・・・唇」
少し紅潮した頬で、がぽそりと呟いてから、一拍ののち。
の体は、唇と言わず体の全てが、アキラからもたらされる激しい愛撫の元に晒されていた。
きつく抱きしめられるたび。
心の上に重ねて整えていた衣が、一枚一枚、めくられて。
芯に残るのはきっと、あなたへの想いだけ。
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