「どうした?洗濯物か?」


両手に辰伶の洗濯物を抱えて、が辰伶の自室の扉をノックした。
しばらく後に、ゆっくりと扉が開く。応対したのは部屋の主のその人でなく、穏やかな笑みを口元に浮かべた太白だった。
が、はい、と静かに返事をすると、太白が扉を大きく開き、の通るスペースを作ってくれた。部屋の中から話し声が聞こえる。
が太白に礼をしてから、その横をゆっくりと通り過ぎ、部屋の中に入ると、すぐに、書類を持って話す辰伶と、他数人の姿が目に入る。
辰伶は話を続けながらも、人の気配にチラリとの方を見た。二人の視線が合わさる。
ほんの、一瞬。

その後、辰伶は微かに頭を下げ、すぐに視線を逸らし、書類に向かう。




の、洗濯物を持つ手に少し、力がこもる。

辰伶の、書類を持つ手が少し、汗ばむ。


そんな事が、二人の日常だった。










何も、気付かない。

触れたいのに、触れる事が出来ない。

思う存分、相手を見つめ、その手に触れ・・・・。
やがてゆっくりと唇を合わせ、そして            ・・・・。
そんな願いを存分に形に出来るのは、夢の中だけだった。




「・・・ん・・」
「・・・起きたのか?・・・・・」
「・・・・・」
「・・・寝言か?・・・」

ふわりと、小さな呟きを聞く事が出来たその喜びを顔一杯に浮かべ、辰伶が笑う。
傍らで、滑らかな流線を描くの肩が、掛け布団の下は何も纏わぬ姿で規則正しい寝息のリズムを紡ぐ。
辰伶は、夢の中の愛しい人を起こさぬよう、少し、少うしだけ、身じろぎをして、に掛かる掛け布団を少し、下に、ずらす。
背中から、腰。触り心地の良さそうな肌の色に吸い寄せられ、見つめるだけのつもりが、つい、手の平をそこに這わせてしまう。





今、手の届く場所にいるから。

触れる事が出来るから。


辰伶がゆっくりと、優しく、の肩に触れ、背に触れ、撫でる。
心地よい感触。肌の暖かさ。










優しく背中を撫でる、彼の手の平の感触で、ゆるりと目が覚める。
いつも、少し、私より冷たい手。
好き。




「・・・・・・辰・・れ・・さま・・・?」
「・・・起こしたか?すまん。つい・・」


気付けば、窓辺から差し込む、朝の日差し。
光に視界が遮られ、伝わるのは、背を撫でる辰伶の手の平から染み渡る、心の体温・・・。


「・・・・?」
つい見つめてしまっていた。は、自分が作ってしまった少しの空白に戸惑いながらも、しかしはっきりと、傍らで微笑む人の名を口にした。
「お、はよう・・辰伶・・・・」

夢を、見ていた。
たとえ二人きりの時でも、辰伶『様』と、呼んでいた、そしてそれが当たり前で、自分にはそれしか許されなかった日々の事を。
いつも、微かにぎこちない声色だった。心に秘めた想いのせいで、どうしてもそうなってしまう事が、自分だけなのだと思っていた日々。

辰伶が、フッと笑う。
「なかなか、慣れないものだな」
「え・・・?」
「目覚めると傍らに、お前の顔がある」
「・・・・・」
「夢でもずっと、一緒に居られたらいい。そうすれば、目覚めて一番に、お前を探さなくてすむ」
話しながらするりと、辰伶の手が掛け布団の下に素早く潜り込みの腰を優しく包んだ。と、そのままグッと自分に引き寄せる。二人の肌が密着する。
辰伶の、の体に触れる手の平の冷たさと激しく比例した、その肌の熱さに、が少し戸惑った表情で、上目遣いに辰伶を見つめる。
「あの・・」
「大体お前が悪いんだぞ。自分の方が朝が早い仕事だからといつもオレを1人ここに置き去りにして出勤していく。二人共に過ごせる朝は、お前が休みの時のみで・・・・・」
恨めしそうな表情でを見て、いきなり盛大に愚痴り始めた辰伶の唇に、が徐にスッと手を当てて、包み込むように微笑んだ。
「・・・・しー・・今日は、まだ、もう少し・・・」
「・・・・・・・」


辰伶は、の。

仕草が、愛しくて。顔に触れる手が暖かくて。
自分を見つめる瞳が、微笑む唇が、自分にはとても艶かしく感じられて。


「・・・・
「・・・はい」
「・・・おはよう」
「・・・・はい・・」

辰伶は、ゆっくりとに口付けた。










交わされる朝のそれは、二人にとって、密やかな、そして愛おしい睦言のひとつ。




















お題お借りしました
ベタなシチュエーション50題
14.おはよう




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