いざないの果実
宇田ゆう奈
久しぶりのお召しがあって、今日は憧れのアスタロト侯爵様のお屋敷に上がった。
ここでの楽しみは、ご用の後にお庭を散歩させて頂くこと。
侯爵様は各地の珍しい植物をコレクションして育てていらっしゃる。
それを見るのが大好きなんだ。
特に好きなのは、綺麗な毒の花がたんとある温室。
あのムッとするような生暖かい空気がいい。
あたいは寒い土地の生まれだから、
変わってて、ちょいと面白いと思うのさ。
今夜は百二十年に一度だけ咲くという食人蘭の開花が見られる。
庭番頭がそう教えてくれたから、あたいは温室の中をどんどん進んだ。
すると、蘭のお部屋の三つ手前、
南洋樹木の間と名づけられたお部屋の
背高の木が数本あるとこで足が止まった。
その木についてるナッツみたいな形のちっちゃな実、
ここ何十年も育つ気配の無かったその実が、
急にムクムクッと動いたように見えたんだ。
あれれ? なんだろ? どうしたんだろ?
立ち止まって見ていると、
そいつは足下にポトンと落ちて、
あっという間にあたいくらいの大きさになった。
あたいはもう興味津々。
だって、あの侯爵様がわざわざ取り寄せて丹精なさるほどの木の実だよ?
この先、何がどうなって、どんな代物になるんだか、見届けたいってもんじゃないか。
だから、恐る恐る触ってもみたよ。
表面は固かった。石みたいに。
けど、微かに脈も打っている。
ふうむ、どうやら生きてるようだ…。
改めてじっと眺めていると、
地面についたところからジワジワ黒ずみ始めた。
やがて尖った実の先まで色変わりすると、
ピシッと亀裂が入って、パカッと割れて、
で、中から、なぁんと、人間の娘の形をしたコレが出てきたというわけさ。
ホント驚いた。
こんなもんが木の実とはねぇ。
でも、それよりあたいを驚かしたのは侯爵様そっくりのこの顔だ。
魔界にお越しになる前は女神だったお方だから、
お宅の果実にもその影響が出て、
それでこんなになっちまったのかしら。
あっは。そうだ。
今いいこと思いついた。
これを食べたら、あたいはどうなる?
あたいも侯爵様の影響を受けて、コレみたいに綺麗になるかしら?
だとしたら、ここは是非とも食べたいとこだけど…。
ま、止めておこうよ。
いくら美人になれたって、何をやったか、一目でモロバレ。
他の方ならいざ知らず、寄りにも寄って侯爵様のお怒りを買うなんて、やなこった。
第一、それじゃあたいの望みと正反対。
それより、一晩借り受けて、ゆっくりじっくり抱きしめるってのはどうだろう?
そうすれば、侯爵様と一緒にいるようなオツな気分にきっとなれる。
素敵な夢が見られるかもしれないよ?
見せる専門の夢魔だって、見たい夢の一つくらいはあるもんさ。
< END >
2007.12.25.
*********************************************
お陰様にて10000ヒット!
見に来て下さった皆様に感謝!
<
宇田ゆう奈
>
*********************************************
背景イラストタイトルコールバージョンは
コチラ
更にデカくて重いビッグサイズイラスト
コチラ
back
*
reset