うつつの彼方に





「・・・・寒いっ!」
「当たり前だ。冬なのだから」
「・・・・オレ帰る」
「・・・仕事を放ってか?別に構わんぞ。このような仕事、オレ一人で充分だからな」


誕生日には、大概いつも任務でろくな想い出が無い。
五曜星の頃に、確かケイコクと同じ任務に就かされた事があった。まあ、有り体に言えば重要な人物の張り番みたいな詮無いもので、その人物が居る建物の外で一晩中過ごしたのだ。雪が降っていた。・・・確か。
時期的な部分もあってケイコクはすぐ音を上げたんだったか。寒い寒いと駄々を捏ね、あまりにやかましいので追い払おうとしたのだ。
いつのまにかオレの服の端が焦げ、ケイコクの髪が濡れて。その後太白が止めに入ってくれなかったら五曜星として大失態をさらすところだったのだ。任務の最中に仲間割れ、と。
朝方、ひどい気分で自室に戻ると、匂いの優しい、白い花が一輪、ベッドの脇に活けてあって、その横に、少しふうわりと暖かい、良い匂いのするお茶が置いてあった。

そうか。
誕生日だったんだ。






「そうでしたか?」
瞳を見開いて自分を見るに、辰伶は少し拍子抜けした。
「・・・・ああ、確か、初めてあのお茶を飲んだ夜、というか朝、は、誕生日の日だったように思う」
「・・・・意識していませんでした。すみません」
「い、いや、いいんだ。・・・オレにとっては、あの時、最高の誕生日プレゼントだったから」
「・・・・・・」
少し微妙に場が白けた。

辰伶はそれを思い立った瞬間に、きっとそうなのだと強く思い、また対して考えもせず口にした。
だが、そんなに悪い事を言ったつもりはない。嬉しかったと、伝えただけなのだから。
なのに、場に流れるこの空気はなんだ。
「・・・なにか、気にさわる事を言ったか?」
伺うように、の顔を覗き見る。






その夜、はいつになく残務処理に追われ、辰伶の元に一日の報告へ上がるのが遅くなってしまった。
時計の針がもう一時くるりと廻れば、日付も変わる。執務室で書類整理に追われていた辰伶の元をが訪れたのは、そんな時刻だった。
今日はずいぶんと遅くなったのだな。まあ、お互いさまか、などと、他愛ない言葉を、だがとても嬉しそうに交わし、が部屋に備え付けのお茶を入れ、辰伶に差し出したのだ。
そして、辰伶が思い出し。

辰伶は自分の机に向かって座ったままだったが、を自分の横に座るよう促し、予備の椅子を手元に引き寄せ、座らせていた。
抱きしめることも、口付けをする事もたやすい距離に、今は居る。


「・・・・?」
「・・・・・すみません」
「なんだ、どうした?」
「・・・・・誕生日・・プレゼント、今日に間に合わなくて・・・」
聞いて、自分の不躾さに、愕然とした。
そうか、今の物言いでは、催促したようになるのか!
辰伶は焦って言葉を繋いだ。
「い、いや、そういう意味じゃないんだ。すまない。不意に思い出して、それで・・」
「・・・・・」
「・・・・・すまない。オレは、配慮の足らない人間だな。今週立て続けに2人も退職したのだから、お前が予想以上に忙しくなるのは当たり前だ。なのにそんな時にこんな事を・・」
今度はが慌てる番だ。辰伶の顔を見て急いで言い募った。
「いえ、あの、なにもそんな、ただ私は、・・・・その、今年こそは、ちゃんと正面から渡せるのだと思い立って、それで・・・」
そう、言われて、その事柄に辰伶の胸が仄かに暖かくなる。
「・・・・・・そうか、今年からはオレも、お前にプレゼントを選んだり出来るのか・・。顔を見て、堂々と渡せる。・・・・嬉しい事だな」
お互いがお互いに、想いを紡ぎあう同士なら当たり前に与えられる喜びに、2人はしばし、浸った。


顔を見る。
少し、照れている。
微笑う。
愛しくてたまらない、と、想いが溢れ出す。



「・・・・・・・・誕生日がこんなに嬉しいのは、子供の時以来だ・・・ありがとう・・」
「・・まだ、何もしていませんよ」
「そうか、それもそうだ」
言われて、クッと愉快そうに笑う。
そんな辰伶の顔を見て、もつられて笑う。
「なにをくれる予定だったんだ?」
「・・・秘密です。仕上がったら、お渡しします」
「・・・・・・そうか。では、今宵は別なものをもらおう」
「えっあ・・ん・・・・」

辰伶の手がの頬に伸び、そしての顔をつと自分の方へ向け、優しく口付けた。

長い口付けの間、の気付かぬうちに、辰伶の手がの腰に伸び、いつの間にかエプロンの紐が解かれている。
太ももの覗くスカートのスリットから、ふいに進入してくる辰伶の手の平の感触に気付く頃には、辰伶は既にの椅子の方へと半身をずらし、体を密着させていた。右手首もいつのまにか捕まれている。動けない。
「ちょっ・・んっ・・駄目っ・・・です!こんなところで・・辰伶様っ・・!」
ベシッ!と、自由になる方の手で勢いよく辰伶の顔を正面から打った。
辰伶の動きが止まる。
「・・・・・・・・」
「・・ご、ごめんなさい・・」
「これはないだろういくらなんでも!誕生日だぞオレは!」
泣きそうな顔で鼻を押さえる辰伶に、の方が憤慨する。
「辰伶様が悪いんです!こんなにところでこんな事を・・する方がどうかしてます!もうっ!」
「・・・なら、自室ならいいのか」
「・・・・・・・・・」
辰伶は「捕った」とばかりに、うっすらと半目になってを脅すように見た。
は、傍目にも分かるくらい勢い良く頬を染めた。言葉が繋げない。
「・・・・お前が忙しいから、オレだって我慢してきたんだ。この仕事はもう明日に回す。今からオレの部屋へ行って」
そこで一旦言葉を切って、の顔を覗き込む。実に嬉しそうだ。
「・・・・2人で風呂に入って」
辰伶は先程一旦解いたのエプロンの紐に手を伸ばし、指を絡め、ゆっくりと、じっくりと、の腰に手を這わす。
の顔は更に真っ赤に染まっていく。
辰伶の頬も少し上気していた。表情に色の香が漂い始める。
ゆっくりと、ゆっくりと、2人の唇が近付く。
「・・・オレのベッドで、朝まで、オレの傍で・・・」
「・・・・・・・」
鼻先で囁くように呟き、優しく口付けた。

やがてはそっと辰伶の背に手を回し、辰伶の言葉と、口付けに応えた。






月の光の元で、ぼんやりと発光する雪の結晶のように。
艶のある、の肌が薄明かりに浮かび上がる。

の体の奥深く、辰伶が辿り付けるその限界まで。
辰伶の吐く息が冷えた空間に瞬間淀み、流れるように漂って。
声も意識も、うつつの彼方に。

















リク内容は、連載夢沿いの辰伶夢、という事でかれんサマより頂きました。
辰伶夢・五よりもかなり通じ合った2人という感じで読んで頂けると嬉しいです。

辰伶夢は書いてて純粋に面白いです(笑)
彼はある意味とっても正直者ですよね。
とっかかりが違うだけで兄弟ホントに似たりよったりで(笑)
でも実はほたるちんよりつつきがいがあります私にとってvvそれも愛vv(笑)

かれんサマ、リクエスト本当にありがとうございました!vv




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