『蝉の声』
☆宇田☆


ねえ、本当にこの私に夏季補習が必要だと思ってる?
答えはNOよ。成績だけは良い私だもの。
希望校は全て射程距離内。先生方だって太鼓判押してくれてるわ。

なのに、この暑い中、こうして登校してるのはこの図書館にこもるため。
つまりは貴女を見たいため。

きっと知らないわね。
図書館のこの場所はグラウンドを見るベストロケーション。
ここからなら走る貴女が良く見える。
私の秘密の定席よ。

女の子なら誰でも、好きな人と結婚したいのは当然。
いつかはそれを告げられると覚悟はしてた。
でも、それがまさか卒業と同時だなんて。
お相手は確かに良い人で、性格も容姿も家柄も申し分ない。
それは私も認めましょう。
だから、子供の頃からのスプリンターへの夢をあっさり捨てる気持ちもわかる。
そして、秋のインターハイで貴女は引退すると言う………。

ああ、こうして走る姿を見るのも、残りわずかの法悦ね。
貴女は昔から走るのが好きだった。
どの季節も風のように速く走った。

調子はどう? 調整は万全?
朝も交わした何気ない会話が、またじりじりと胸を焼く。
今を留められない非力さは、私が女に生まれたせい?
それとも、先に好きになってしまったせいかしら?

けれど、安心して頂戴。
ポーカーフェイスは年季物。
お式ではご指定通りに振袖を着て、きちんと壇上で祝辞も言うわ。
貴女が変わってしまうことだって、十二分に予想済み。
でも、その変化はきっと良いことなのだから、
私は笑って何もかもを祝福するでしょう。
だって、私は貴女の親友。
今までと同じにこれからも、ヘマをする気はさらさら無いの。
だから…。

だからね、今だけは思っても良いでしょう?

走って。
もっと走ってよ、私のアタランテー。
真夏の青い空の下、降るような蝉の声の中で、
他の誰をも寄せつけず、私すらも置き去りにして、
アルテミスの高みまで、その俊足で駆け抜けて。

それが叶わないなら、せめて。

風の化身のような清らかな今の貴女の姿を、
どうかこの目に焼きつけさせて………。


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今回は、GLテイストでお送りしてみました。
いえね、サイト趣旨から言っても、またML系にすべきだよな、とは思ったんですけどね。
でも、そういや、「自分の基本はユリでござい」とか言ってる割には、
ここのサイトでソレっぽい物を正面切って書いたことないなー、と思い出したの。
以前、ベニちゃんにも「BLやMLはわかるけど、GLって、どうもピンと来ない。一遍書いてみて」と
言われたことあったしね。
で、チャレンジしてみました。

それにしても、ナンですねー。こういうのってテレますねー。
学生時代のこととか、つい思い出して、
ともすれば当時の甘酸っぱい記憶に浸りそうになっちゃって、参ったぜ。てへ。(^^ゞ)
(お陰で、推敲、甘いです。すみません)
それと、前回の「あじさい」も今回の「蝉の声」も
私にしてみたら『無邪気な人に片思い』という同カテゴリーの1シーンなんだけど、
人物を女にすると、こうも長くなっちゃうの。
それだけ女って背負ってるモノが多いんだよね〜。やれやれ〜。
という2点から、このジャンルって宇田には結構難物で、なかなか小説にまで行き着かないのでした。
(そうとも。吉屋信子は偉大だったさ…。望遠)

さて、次回の御題ですが。
こないだありましたよね、皆既月食。
これにしたいと思いますが、皆既をつけると難しそうなので、ここは穏便に「月食」で一つ。
よろしく〜。




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