辰伶





「また彼女の事考えてる」

辰伶は、公務の際の一休みに窓の外の景色を眺めながら、ついついその景色の中にの姿を探していたのを背後からいきなり言い当てられ、どきっとして慌てて振り向いた。
そこには、大福を二つ手に持った、笑顔の紅の王が立っていた。


ここは、普段辰伶が使っている執務室の中である。
先程まで部下と一緒だったのだが、退席させてからは一人でもくもくと書類整理をしていた。疲れてきた頭の中を少し中休みさせようと、窓際に立ち外を眺めていたのである。

辰伶は、心の中を覗き見された恥ずかしさに少し顔を赤くしつつ、紅の王に向かってため息混じりに言った。

「音もさせずに戸を開け、気配を微塵も感じさせずに背後から忍び寄ってきて部下を脅かすというのは、あまりいい趣味とは言えませんよ」
紅の王はそんな辰伶に対し悪びれもせずにっこり微笑んで、今まで辰伶が座っていた椅子に座り、大福の皿をひとつ、机の端に置いた。
同じ机の上に散乱している手近の書類を逆の端に避けて、もうひとつの皿を置く。
辰伶に、美味しいよ、と勧めてから、自分も大福を頬張りつつ、誰にともなくぽそっと呟いた。
「女官長のを是非うちの嫁に、と、各官僚の親族その他から、申し出が殺到しているんだけど、どうしたらいいと思う?」

辰伶は思いもかけない話を紅の王に聞かされ、思考停止してしまった。




壬生内部の変革の際に、辰伶が彼女を女官長に推薦した時、紅の王は笑顔で後押しをした。
辰伶のその行為が、に対する心からの想いの不器用な形である事を密かに知っていたからだ。
紅の王は辰伶の、自分に対してとても実直で不器用な所を心から好ましく感じていた。

紅の王は、当たり前に日常的に、人の心に踏み入るような行為を良しとしてはいなかったので、この時はまだ辰伶と、今のような会話を交わしてはいなかった。
紅の王は、辰伶の生真面目な性格上、好きな女への欲情などは、このままずっと心の中に深く秘めたままでいるかの様に思っていた。
だが、その日執政会議の終わった後持ち出された、不在のままの女官長の席をどうするかという話題の最中、辰伶が、いきなりその席に自分の世話係を強引に推薦するという行為に走ったのだ。
女官長になる女性は、今壬生を一手にまとめていると言ってもいい立場の辰伶に対し、毎日、一日の報告に上がらねばならない。という事は、今までより更に二人の接触の機会が増えるという事だ。
なので、辰伶はこのままでは一生でも独身で通しそうだと、密かに心配していた紅の王は、辰伶がこの日を境に、秘めたる感情を表に出して、もうそのまま雪崩式に勢いと結ばれるのではと期待していた。

なのに彼はそれをに言うでもなく、日々の間に少ししかないとの時間を、いつもと同じように機械的な会話だけで過ごしている。
一日の報告に上がらねばならないという決まりも、例えば辰伶の部屋で、部屋を整える為に来たと偶然かち合ったりすると、そのままそこで一言二言交わし、済ませてしまう。
紅の王は、自分に一途に尽くしてくれる辰伶が、部下としてよりもむしろ友人として、どうして今一歩、に対し踏み込まないのか、進展のない二人が気に掛かり、ある日、辰伶に対し、「好きなんでしょ?なんで言わないの?」と、ついちょっかいを出してしまったのである。

そしてそんな紅の王に対し、最初こそ火を吹きそうな程赤い顔をして、そんな事にまで踏み込んでくれるなと、突っぱねていた辰伶だったが、紅の王が、踏み切れない自分の事を心から心配して言ってくれているのだと悟り、そしてあまりのしつこさに根を上げて、紅の王と自分との間に、自分の心の中にある女性の事を共通の話題として持つ事を、仕方なく良しとしたのである。





辰伶が何故、を女官長にしたのか、その理由は二人の過去にあった。

昔、五曜星になったばかりの頃の自分についた世話係は、世話係としてはベテランであったが、そのプライベートでは2度の結婚に失敗して、再度世話係に舞い戻ってきたという、ちょっと変わった人物であった。
辰伶は、彼女のプライベートにはまったく興味がなかったが、世話係は良い縁に巡り会う為なら誰とでも寝るなどという噂もちらほら聞いていたので、ちょっと軽薄な印象の彼女を、少し警戒していた部分もあった。
それでも、自分の身の回りの事を一手に引き受けてくれているのだから、と、部屋でかち合った時などは出来るだけ声を掛けてやろうと努力した。

特に何事もなく、日々上手くいっていると思っていた。
だがそう思っていたのは辰伶だけだった。

ある程度女性経験のある男なら、不用意にこういう手負いの女性に優しくしないものである。ある日いきなり覚えのない恋情を突きつけられる様な事にもなりかねないからだ。

ある晩、薄い寝間着一枚で、自分の寝所にその世話係が忍び込んで来た。
今まで世話してきた男達より、自分に優しく接してくれた辰伶に対し、何を勘違いしたのか、一夜の慰めをとでも思ったのだろう。
本人はそれなりにドラマチックに迫ったつもりだったのだろうが、辰伶の方は疲れで眠り込んでいた間の、一瞬の他人の気配に、思うより先に体が反応し、その世話係を拳で思い切り殴り飛ばしてしまったのである。

その世話係は鼻の骨が折れていて、後々大変な騒ぎになってしまい、辰伶の実家や、内密に太白も力を貸したりと、大変な労力を費やして、お詫びにその世話係に良縁を見つけてやったのだ。

その時の経験から、暫く世話係はいらないと、一人でなんとかこなして来たのだが、いかんせん仕事量が多過ぎる。身の回りの事に気を使い過ぎて睡眠不足になり、あげく公務に差し障りが出るようであれば意味がない。
そして辰伶は、世話係とはなるべく関わり合いを持たない様にしようと強く心に決め、が新たに辰伶の元に来た時には、口数の少ない、偏屈者が出来上がっていたという訳である。



辰伶はと出来うる限り接触しまいと、日々過ごしていた。
何の罪もない彼女に対し罪悪感も無いではなかったが、以前の、太白にまで心配と世話をかけてしまった自分に、そして女性に対し、我知らず一種のトラウマ的なものを抱えてしまっていた辰伶にとって、そうする事が相手に対してもよい事なのだと思い込もうとしていた節もあった。
だがそんな自分に対し、は実によく尽くしてくれたのである。

彼女が整えてくれる部屋に、深夜、心身共に疲れて帰ってくる。
もう着替えるのも億劫だと寝室へ行くと、ベッドの脇の机の上にいつも水差しが置いてある。
暖かい日は少し冷たく、寒い日は人肌に暖かい、良い香りのするお茶。
そしてその横に一輪、名も知らぬ美しい花が差してある。

が整えてくれるそこは、なんとも言われぬ居心地の良さで、疲れた辰伶を迎え、癒してくれていた。
自分が笑顔を向けまいとも、常に笑顔で接してくれる、辰伶はそういうの気遣いに、居心地の良さに、いつの間にか慣れてしまっていた。
いつまでも自分の側で自分の身の回りの世話をしてくれたらいいのにと思うようになっていた。

だから、ある日、の婚約が決まって、人が代わりますと女官長から聞かされた時には、本当に心から、寂しさを感じたのである。
もちろん口にはしなかったが、なんとはなしに気になって、相手を密かに調べたりもした。
そして相手の男性が、およそ二人の間に恋愛など考えつかないというようなもの凄い年上の役職だと知った時、ああ、彼女も縁捜しの為に親に言われて勤めに来たクチか、と、心の中でをさげすんだりした。

辰伶はそっち方面にはまだまだ奥手で、自分の中のそういった感情が、実はに対する恋情からくる独占欲だという事に、気付いてはいなかった。

そして、婚約する以前より何か元気のないように見えるに対しても、ことさらに冷たく接した。
婚約を知っていても、おめでとうなど言う気も無かった。
いきなり10日も休みを取ったのも、婚約者と式の打ち合わせでも兼ねて旅行にでも行ったのだと思っていた。
そして、が休みを取って9日目に、婚約者の男を城内で見かけて、自分の考えを不審に思い、女官長に、の休みの理由を尋ねたのだった。

辰伶は困惑した。両親が亡くなってしまった事を不憫に思ったが、何故そこで婚約破棄なのかが分からなかった。今一番頼るべくはその男ではないのか。と。
10日の休みが明けて戻って来た日に、若干元気のない様子は見えるけれど、それでもいつも通りにてきぱきと仕事をこなすに対し、辰伶は訪ねずにはいられなくなっていた。そして聞いたのである。直情に、なせ嫁に行かなかったかと。


オブラートでくるんだように話す、という気遣いは、どんな厳しい修行をしても、一生辰伶には身につける事の出来ない一種の芸当である。
そんなに会話を交わした事のない相手にいきなりそんな事を問われて、実はですねと内情を話す人間もあまりいないだろうが、辰伶はその性格上、まさにそのいきなりをとったのである。
は目を剥いて辰伶を見た。
辰伶はのその様子が気にくわなかった。何故かイライラした。
そしてぶつけてしまったのだ。世話係の女というものに抱いていたトラウマを、何の罪もないに対して。


「死ぬほど偏屈な男にそんな事一生!死んでも!頼みませんので。いらぬ心配でございます」


にそう罵られて、辰伶は気付いてしまった。自分がを愛おしく思い始めていた事に。

それ故、何も話してくれなかったに対して、自分勝手な怒りを、筋違いな憤りをぶつけてしまった事に。

だが、もう、何もかも遅い、と、辰伶はその後、激しく自分を責めたのだった。




「・・・女官長になる事が、彼女の後ろ盾になればと思ったのです。その実績は後々まで評価されますから。彼女が今後困る事のないように・・。それに、彼女の手腕なら、女官長という地位は決して重いものではない筈です。確かに、大抜擢と言える無理な人事ですが、現実に彼女は今、とても良くこなしているでしょう?」

そう言った後の辰伶の笑顔が、なんとも言えず切な気に見えて、紅の王は思わず言いそうになった。
も君の事が好きなんだよ、と。

だが、そのようにして自分からの心を聞いても、辰伶は喜ぶまい。

自分の中にあるへの感情に手をこまねいている辰伶がいじらしく、反面いじましくて、紅の王はとうとうある日、なんとかならないものかと、一計を案じた。
それが例の、フリフリエプロンである。
そんな可愛いを二人きりの部屋で見たりしたら、辰伶だって、我慢ばかりしていられない筈である。二人ともに、さらけ出してしまうのが一番だと、考案したアイデアだった。

このフリルフリフリを辰伶が初めて目にした時の反応は、紅の王にとって本当に予想外に楽しいものだった。まさに百面相もいいところだった。

その日、朝一番に会議が入っていたのだが、紅の王はそれを無理矢理時間延長して、延長の理由を問う辰伶を窓際まで引っ張っていき、女官達の朝礼の場を指さした。
辰伶はフリフリをまず目にして、驚いた。
そしてあまりの可愛さに、つい、にやつき、慌てて厳しい表情に戻す。
そして自分以外にもそんな彼女達を目にしてにやついている男達がいる事に気付き、怒り、そして紅の王の方を振り返り、赤い顔をしたまま、きつく睨み付けて言った。
      あなたは一体何がしたいんです!」
声が裏返っていた。

その後辰伶は、自分の百面相に大爆笑して話にならない紅の王をその場に放って、急ぎ女官達の朝礼の場に降り立ち、なんとか朝礼が終わるのを待って、終わるとすぐをその場から連れ出した。
が、連れ出した後で辰伶は、衝動に任せてこんな事をしてしまったものの、「その服装はやめろ」とは、また誤解を伴うし、「可愛い」なんて、死んでも言えない!と、困り果てて黙り込んでしまった。
そこへとことん笑い終わった紅の王が現れて、辰伶に助け船を出した。
「皆はあれでいいけど、は女官長だから、スカート長めにして威厳を出そう」
朝礼が終わった途端、凄い勢いで通路の影に連れて来られて、何を言われるのかと不安気な顔をしていたに紅の王は満面の笑顔で言った。
辰伶はその紅の王の発言を鶴の一声にして、
「自分もそれが言いたかったのだ」
と、と目を合わせずに言った。そして、いきなり呼びつけてすまなかった、と、紅の王を引きずって会議に戻ろうとした。そこで紅の王は引きずられつつも、更に、
「スカート長くしても、今のそのスカートも捨てずにとっておいてねーすごい可愛いよー!」
と、遠ざかりつつあるに向かって実に楽しそうに叫んだのである。
は、はあ・・と、この人はよく分からない人だと不審ありありの目線で紅の王を見ながら曖昧な返事をした。


結局このアイデアは、勢いで二人をそういう仲にさせるというのは失敗に終わった訳だが、自分以外の男がを注目するという現実は、辰伶を追い込むに充分だったと言えるだろう。
辰伶は以前よりもっと、を気に掛けるようになり、気持ちを閉じこめておく事に苦労している様子だった。
そんな中、を嫁に欲しい、と、今朝進言して来た者を皮切りに、続けて3件、同じ申し出が殺到したのである。





「・・まず先に本人に言ったらしいんだけど、はねつけられて、私のところに来たんだ。今日4件、同じ申し出があったよ」
淡々と喋る紅の王に、辰伶は我に返って問うた。
「何故、そんな急に」
「・・・・噂がね。は、紅の王直々に女官長に任命されたとか。紅の王に気に入られて可愛がられている、とか」
辰伶はそれを聞いて、怒りが込み上げてくるのを感じた。
「己の出世の為に、または親族の出世の為に、を利用しようという腹か」
歯ぎしりをせんばかりの形相の辰伶を、大福を食いながら横目で見ていた紅の王は、ぽつりと、呟くように言った。

「でも君は、彼女の後ろ盾の為に、彼女を女官長に推薦したんだよね。その考えから行くと、彼女のこの状況は、願ってもない事じゃないのかな?」

辰伶ははっとした。確かに、紅の王の言う通りだと思った。
自分はに名乗りを上げる気などなかったのだから、誰か、に想う人が出来た時に、その相手の親族に、の立場が重要視されれば、何の後ろ盾もないただの世話係の女官としてよりも、嫁に行きやすくなる。そう思って推薦したのだ。
辰伶は、重い目をして、窓の外を見た。

「今日の申し出の中で3件は、みな出世狙いの者達だったけど。残り1件は、ちゃんとを見て、理解して、その力を認めて、真にを欲していたよ。よく出来た娘だ、とね」
辰伶は窓の外を遠い目で見つめたまま微動だにせず、紅の王の話に耳を傾けていた。
「今は単なる噂のせいで人気が急上昇しているのだとしても、そうやってきちんとの価値を見て、認めている人もこれからどんどん増えてくると思うよ。ただでさえ、今までに例のない若い女官長って理由で、人の目に晒される機会は多くなってくる訳だから」
辰伶は何も答えない。ふと、紅の王が立ち上がり、部屋の脇に備え付けられたお茶セットで、辰伶の分と自分の分、二つのカップを出し、湯を注ぐ。

「・・・・・人の想いはね、辰伶。手遅れになんて、ならないんだよ」
辰伶が、はっと顔を上げて紅の王を見る。
「手遅れなんて、ありえないんだ。そうだろう?人の心ほど柔軟で、頑ななものはないのだから・・・」

「・・・・・・・」
その穏やかな表情と声色に、辰伶は暫く無言で紅の王の顔を見つめた。
紅の王の言葉の中にある真理を推し量ろうとしていた。

紅の王はカップの湯気を後にくゆらせて、辰伶の机に戻り、彼の分のカップを、彼の分の大福の皿の横に置きながら言った。
「・・・が、並み居る求婚話を、次々と断っているのは、果たして何の為なんだろうねえ」
イスに座り直して、自分の分のお茶をすする。
辰伶は、先程からの紅の王の言葉の真意を、やっと悟った気がした。

紅の王は心が読める。私のだけではなく、のも     
暗に、の気持ちが今どこにあるかを、私に教えようとしてくれているのか?
だが・・・・・

辰伶は、また苦し気な表情に戻り、窓の外に向き直った。
辰伶がに名乗りを上げる気がなかった理由は、彼女を傷つけたという意外にもうひとつあった。
それは、自分がいつ命を失うか分からない立場の人間だから。

自分は、かつて吹雪を心から慕っていた頃から、そして今も、壬生を狙ってくるものに対して自分が矢面に立ち、敵をなぎ払う事を、自分の本当の使命としていた。
そして、その際もし討ち死にするような事になったとしても悔いはない、と。

もしそうなった時、自分の為に悲しみ嘆く者を、これ以上増やしたくなかったのだ。
ましてを、自分の愛しい人を、自分が再度哀しませるような事は、あってはならないのだ、と。
辰伶の顔が切な気に歪んだ。




「知ってる?私も先日初めて読んだ書物で知ったんだけど・・」
気付けば紅の王が辰伶のすぐ横に立っていた。耳打ちするように近付いて声を潜める。
「・・・・使わないと、減るんだって。その・・」
「・・・・?」
紅の王が更に声を潜める様子を見て、辰伶は、何を話す気なのだ、と、怪訝そうに顔を寄せた。
「・・・・・・・子種が、ね」
      は?」
辰伶は、自分の聞き違いかと、もう一度訪ねる。
紅の王はちょっと顔を赤くして、もう一度言った。
「・・・使わないと、子種って減るんだって。ちゃんと定期的に、使った方がいいんだって。知ってた?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!」
辰伶は言葉を失って紅の王を見た。紅の王は更に照れたように笑って続ける。
「人の体って不思議だなって思ってね。定期的にって、思ったより大切な事だったんだなってびっくりしたよ〜あっはっは〜」
「あっはっはではありません!!!!!いきなり何を言い出すかと思えば・・・」
笑う紅の王に対し、いきり立って怒鳴る辰伶だが、言われて頭に浮かんだ事は全て読まれているのだと、はたと思い立ち、顔を真っ赤にしてまた窓のほうに向く。
「・・・オレはいつもをそういった対象に考えている訳では・・」
「あるよね♪」
「ぐ・・・」
辰伶の顔は更に真っ赤に染まる。握り拳を作って勢い反論した。
「好きな女をそういう風に考えるのは男として当然の事です!ですが、考えるのと行動に移すのでは全然違います。オレは・・・」
そしてすぐまた遠くを見ようとする辰伶を、紅の王がつと引っ張って、イスのほうに連れていき、座らせてお茶を勧めた。
「食事にでも誘ってみたらどうでしょう?ほら、こないだ会議に使わせて頂いた町のお寿司屋さん、なかなかに美味でしたよね?」
深刻な方向から話を逸らそうとしている紅の王の気遣いに、辰伶は仏頂面でお茶を一口含んで、一息ついてから言った。
「・・・は生臭いものがダメなのです」
「・・・・・そうなの?」
「色とりどりに並んでいても、手を出すのは卵。その後もまた卵。・・・以前、城の改築が終わった後の、祝いの食事会で、ずっとそうでした。肉も、牛肉には手を出していませんでしたし、生野菜も食べていませんでした。箸で避けてましたね」
「・・・意外に好き嫌いが激しいんだね。というか、よく見てるね     ああ、着飾ったが可愛かったんだね」
「ぐ・・・・!そういうとこだけしっかり読むのはやめて下さい!」
辰伶は、楽しそうに笑って言う紅の王に対し、またまた真っ赤になって反論した。

コンコン、と、二人が語っている部屋の戸が遠慮がちに叩かれた。
二人ともそちらを振り向くが、辰伶が返事をした。
「・・なんだ」

「るるですぅ。紅の王を探してきましたぁ」
「ここにいるよ、るる」
辰伶が答える前に紅の王が答えると、弾かれたように部屋の戸が開いて、るるが飛び込んできた。何か言おうとして、机の上の大福に気付く。
「あ        !!!ここにあったぁ      !!!んも      !!!これはるるが紅の王と一緒に食べようと思ってとっておいた大福なんだよぉ?!!なんで辰伶とたべちゃうの     ?!も     !!」
「えっそうだったの?ごめんごめん!じゃあ、昨日狂から届いた、南蛮渡来のチョコレートとかいうものがあるから、それを一緒に食べよう?」

紅の王が慌てて立ち上がり、るるを連れて出て行こうとする。
ふと動きを止め、辰伶のほうを振り向き、真面目な表情をして、言った。
「決めるのはだからね。君じゃないよ。それを忘れないように・・・」




後に残された辰伶は、静かになった部屋に一時置いてから、深く息を吸い込んで、長く、吐いた。

気付けば外は陽も暮れていた。今日はもう何をする気も失せてしまい、辰伶は机の上を片付けて部屋に戻る事にした。
片付けつつ、紅の王が置いていった大福をダイレクトに頬張る。とても甘くて食べるのが辛かったが、お茶で無理矢理流し込むという方法で、全てたいらげた。
辰伶は、残る甘い後口に、体の疲れが癒される気がして、たまには甘いものもいいな、と思った。

今日、これから部屋に戻れば、が洗濯物を片付けにくるかもしれない。
もし、部屋でかち合ったら、紅の王の言うように、夕飯に誘ってみるのもいいかもしれない。
決めるのは、だ。

辰伶は部屋の戸を閉めて、鍵を掛けた。そしてしっかりとした足取りで、自室へと向かった。




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