辰伶
雲模様は朝から思わしくなく、天上を覆う重たそうな灰色の固まりが、今にも激しい嵐を呼び起こさんが為に空一杯に張り付いていた。
だが、午後になっても雨は降りそうで降らない。
まるで雲に意志が存在するかのように、町を行く人の波に向かい、激しく雨雫を打ち付けるその一番の好機を、今か今かと狙っているようでもあった。
そんな重たい空を窓越しの景色に、午後の執務室はいきなりの紅の王の到来に粟立った。
その後、意図的にではないが、辰伶と二人きりで話したかった紅の王にとって都合よく人払いも出来、現在の室内は、これまた一際どんよりとした黒い雲を、頭上にこんもり乗せた鬱陶しい辰伶と、はたまた、ふう、と憂えた吐息を吐く紅の王の二人だけになっていた。
「ふぅ・・・」
紅の王の口から、吐息がまたひとつ。
「・・そんなにいっぺんに何もかも欲しがるから・・実直過ぎて応用が利かないのもほどほどにしないと・・」
紅の王は少し、呆れていた。辰伶が事に対しあまりにも性急だからである。
二人は、ここまで辿り着くのに、長い年月を費やしている。まして密事に関しては、とかく女性の方がデリケートに出来ている。受け入れる側の心の準備も、晴れて想いが通じたのだと芯から理解する時間も、辰伶はに与えてやらなかった。まさに、我が身の幸福に酔いしれるがままに、を追い立てたのである。意識してでは無いからこそ、余計に質が悪い。
実直なのは辰伶の良いところでもあるけれど・・・。
辰伶は紅の王の目の前で、不穏に暗い影を背負って視線もうつろに突っ立っている。
彼はに対し、同じ過ちを繰り返しそうになっている事にすら気付いていないのだ。
いつもなら心を読まれ、そしての事で心の中に必要以上に踏み込まれる事に対し少なからず苦情を述べる辰伶だが、今日はそんな気にもなれないらしい。ここに誰か人が居たならば、まるで先程からずっと、紅の王が一人ぶつぶつと独り言を言っているように感じただろう。
じっと辰伶を見つめる紅の王の視線を、辰伶は俯いたままで、受け止める事をしなかった。
「・・・・の言った事は的確に政情を説いてると思う」
窓際に寄り、外の景色へと顔を背けていた辰伶の肩がぴくりと揺れる。
「・・・は正しいよ。・・そんなを引き留めずにそのまま行かせたって事は、君もそれがちゃんと理解出来てるって事でしょう?」
「・・・・・・・・」
辰伶はまだ顔を背けたままだ。紅の王はまたひとつ、ふうぅ、と、今度は少し長めの吐息を漏らした。
現在、壬生の内部の勢力図は、先の戦いで大きく揺らいでいる。
当たり前であったものが、当たり前でなくなり、当然そこにあるものと手を伸ばしていた先が一様に暗闇に呑み込まれている。今まで、壬生の中でも特に高位にあったもの、そしてその位置に胡坐をかき、贅の限りを尽くしてきた殆どの者がそういう気持ちに追い立てられている。
手っ取り早い、といえばそうだが、辰伶との縁組は、そんな者達にとっては格好の道具なのだ。今現在壬生の最高位といってもいい辰伶と、自分の娘、あるいは親族とがそうなる事は、後々の自分達の地位を確立する為には最適で最高の手段と言える。
まして辰伶は独身で、特に浮いた話もない。辰伶の現状は、そういった輩にとっては、付け入る隙もあろう、と意識させる格好の獲物だ。
だが、だからこそ辰伶は、慎重に、そして確実に壬生の今後を見据えて、縁組の相手を選ばなくてはならないのだ。「あの方なら」と、その様な輩を特にぐずらせる事なく諦めさせることが出来るような、口を挟む余地など無い程の、上位の家柄の才色兼備を。
あの方なら致し方ない、と思わせるような。
不穏な動きを呼び込まぬように。
辰伶は自分の婚礼に対し、何もそこまで大仰に考えなくとも、と思っていた。
自分はいつでも前線に出るつもりだし、そうなった時に自分に代わってこの位置を治められるような力量の持ち主もちゃんと自分の後ろに控えさせてある。まして極端な話、縁組をしたからといってその縁戚の者に何を頼まれても、特に取り立てる気はさらさら無かったから、そのような期待はこの堅物にとって無意味な事なのだ。
誰よりも、にはそれを理解していて欲しかったのに。
辰伶の心の中では、いつの間にか論点がすり替わっていた。紅の王がピクン、と訝しげに眉を寄せる。だが辰伶はそれに気付かず、自分の心の中で小さく頭を振った。
「らしくない」
紅の王がまた、ぽつりと言った。声の響きは、先程までの窘めるようなものとは違い、少し強張っていた。だが未だ辰伶は、紅の王の微妙な変化に気付かない。
「のせいにしてるんだ」
「なっ・・・」
弾けたように辰伶が険しい表情で顔を上げ、反論の姿勢を取った。
「そういう訳ではありません!ですが、オレは」
「オレは?なに?」
間髪入れずに無表情で聞き返されて、辰伶がぐっと詰まる。
「じゃあそんなに落ち込む事無いよね。でしょう?自分がどんな立場にいて、が何を考えてそう言ったのか、とくと理解しているって事だよね?まさか子供のように強情に、欲しい欲しいと足や手をばたつかせれば当たり前に手に入るなんて、考えてはいないだろうから?」
「それは・・いや、だからこそ、オレは、」
「が君の事を理解していて当然なら、君はの事をよく解っていて、彼女が何を考え、どういう返事を返すかも、全て理解していて、求婚したんでしょう?まさかわざと追いつめて泣かせてる?二度も」
「!」
ザー・・・と、小気味良い程の音が響く。いつの間にか窓の外は、大粒の雨が激しく降り注いでいた。
紅の王がすっと動き、窓際に凍ったように佇む辰伶の側に静かに寄った。
ハア、と息つき、いつもの穏やかな表情に戻る。
「ごめん。嫌らしい言い方をしたね。・・・・少し、苛めたくなった。君があんまり、真っ直ぐだから・・・」
「そんな事は・・」
辰伶は苦々しい表情で顔を横に振った。紅の王が今自分に言った言葉の意味が、どすんと音を立てて腹の底に落ちた。
追いつめた。
二度も。
確かに、自分は急き過ぎだったかもしれない。自分の考えに囚われ過ぎて、の心の中をちっとも思いやれていなかった。これでは、昔、に対し自分勝手に歯痒さを感じて手ひどい言葉をぶつけたあの時と、なんら変わりがないではないか。
あの時も、すすり泣くを一人にした。抱き留めるでなく、掛ける言葉もなく。
辰伶は急に、昨夜、あんな風に泣いて、風呂を後にするの背中を、ただ見つめる以外に出来た事が、自分にはあったのではないかと思えてきた。
そして同時に、男としてなにやら、あの場でひどく戸惑ってしまった自分が、今更になって至極情けなく思えてきた。
悶々としている辰伶を見て、紅の王はふわりと笑って言葉を続けた。
「・・・・・・・この場合、どちらが正しいか、じゃなくて、自分がどうしたいか、なんじゃないのかな」
自分の考えの中に沈み込んでいた辰伶が、紅の王の言葉で現実に引き戻される。
「・・・ですがあなたは昨日、」
「うん。言ったよ。決めるのはだとね。だけど、の本心はどこにあるの?気付いてるんでしょう?昨日の涙も、その奥にある想いも・・・・」
「・・・・」
「頑ななに殉じるのもひとつの愛の形だとは思うけど、そうする事によっての一番の幸せは成就されるのかな?」
「一番の?」
辰伶は顔を紅の王の方に向け、真剣な表情で視線を合わせた。次に紅の王の口から紡ぎ出される言葉を待っている。
紅の王は辰伶の視線を受け止め、言った。
「君が以外の誰かと結婚して、その誰かを自分の傍らに置いて、幸せに笑うことが出来るのかって事だよ」
「・・・・・・」
「それをきちんと教えてあげないと。言葉にして、伝えてあげないと」
「・・・・・・・」
言葉にして。
想い合う者同士なら至極当たり前の事なのに、自分達にとって今まで一番足りなかったもの。
まして辰伶はどちらかといえばそういった事に対しては口べたな部類に入る。その上、今までが出来過ぎた分、相対するのに普段より余計に言葉少なに過ごしてきた。だがそれでも二人の間では充分に事足りていたのだ。のおかげで。
辰伶は改めて、は自分に対しこれ以上ないほどに尽くしてくれていたのだと思い知った。
紅の王が言葉を続ける。
「・・・・政情の事に関しては、その後の事だよ。まして、君はの言った通り、今の壬生にとって、なくてはならない重要な人物だ。その本人が決めた事を表立って疑問視し、非難する事は、自らの立場を貶める事にもなりかねない。隙をついて暗躍しようとする人物は、・・・ある程度は目星がつくだろう?に何事も無いよう、その身辺に目を光らせる事は、今の君なら容易い事だね」
「・・・・・」
そうだ。紅の王の言う通り、今の自分にならそれは可能な事だ。
難しい事ではないのだ。何もかも。それを、に伝えてやらなければ。
辰伶は、改めてそれに気付かせてくれた紅の王に対し、感謝の意で熱く見つめた。と、紅の王が辰伶の顔元近くに寄り、眉を潜めてこそりと言った。
「・・・・自信がないから、引き止める事を迷ったの?そんなにも、隙間無く溶け合ったのに?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・紅の王!」
「あ、ごめん」
何時でも心の中を読まれるというのは、本当に難儀な事だ、と、辰伶は顔を真っ赤に染めて、ひとつ、盛大なため息をついた。
そんな辰伶を見、自分の失言を謝りつつも、紅の王の顔にはふんわり笑みが浮かんでいる。
「君は、可愛い男だねえ」
紅の王は辰伶のことを芯からそう思い、辰伶は紅の王から、なんの含みなくそういわれた事に、喜んでいいやら落ち込んでいいやらと、複雑な表情で紅の王の綻んだ視線を受け止めた。
「・・・様、入りますよ?」
その日は朝から、があまり体調が優れない様子だったのを見越して、副女官長のセツが、しぶるを自室に戻し、半日休ませていた。
昼になり、セツはの分の食事を自分の物と共に軽く包み、の自室を訪ねた。
軽く戸を叩いて、返事を待たずに、戸を開けて中に入る。その辺は、勝手知ったる、だ。も特に抗議の声を上げるでもなく、ベッドの傍らに腰を降ろしたまま、チラとセツの方を見た。目元を真っ赤に泣き腫らしていた。
セツはより一回りも年上で、壬生の高官との間に三人の子を授かっている。
一番下の子ももう十を過ぎ、家でじっとしているよりも仕事をしたいと自ら申し出て、ここにいる。夜はもちろん家に帰り、良き母、良き奥方の顔だが、ひとたび仕事に立ち戻れば、持ち前の洞察力とその懐の広さから、にとって、そして女官達にとってなくてはならない人物となっている。
セツがの横に座り、手に持っていた包みから握り飯を取り出す。上に、の大好物のえび天が乗っていた。
は、差し出された天むすを、静かにゆっくりと受け取った。
「・・・だいぶこすったんですね。もう駄目ですよ。泣くのはいいけれど、軽く押さえる程度にしないと」
優しい響きで、の行動をセツが窘める。はセツの方を見、口を開いて、何事か言おうとしたのだが、それと共にまた物凄い勢いで大粒の涙がみるみる溢れ出す。
「・・・ 泣くまいと思って、・・・もうやめようと思って、なのに、・・・・・」
そんなを見て、こちらも盛大な吐息を漏らす。
「・・・・様」
「・・・・二人の時は、様を止めてって言ってるのに・・」
ぐしぐしと、しゃくり上げながら訴える。にとってセツは、女官としての勤続年数は何年も上の先輩にあたる。二人の時は、こちらが敬意を払って「様」を付けたいくらいなのだ。はセツにいつもそれを訴えては軽く笑ってかわされていた。
だが今日のセツは笑わずに、心持ち真剣な面もちでの顔を覗き込む。
「昨日、辰伶様にもそう言われたんじゃないんですか?」
瞬間、の顔が固まった。
セツは、今更、という顔をして、エプロンのポケットから何かを取り出し、の膝元にぽん、と置いた。
「あ!」
が思わず頓狂な声を上げる。昨日取りこぼした、辰伶の下着だった。
「・・・・拾ったのが私で良かったですね。ん?・様」
ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて、横目での顔を覗き込んだ。
「・・・知ってたの?」
自分の、辰伶様への恋心を ・・・・?
セツは、ふう、と、一つ息つくと、困った人だなあというような表情で、言葉を続けた。
「分からいでか、ですよ。私はあなたの一番近くにいるんですよ?その視線の先が誰かくらい、とうに気付いています。大方今日体調が優れないのも、そうやって泣いているのも、亡くなった家族を思い出して、とか言い訳する気だったんでしょうが、・・・もう私には、話して下さってもいいんじゃありませんか?」
「・・・・・・」
は真っ赤な顔をして俯いた。
自分は上手に隠していたつもりだったし、何よりセツはそういう事をあまり好んで詮索する方では無かったから、二人の間で色恋は話題に上った事が無かったのだ。
は今更ながらに、とうに気付かれていた自分の恋心を思って、恥ずかしくなった。セツは、知っていたのだ。自分がいつも心に何を思って、辰伶と接していたかを。
「・・・昨晩、あなたが中々部屋に戻って来なかったので、辰伶様の自室を尋ねていったんです。残っていた仕事は些細な事ですが、まあ、今のこの時世、物騒な事も必ず無いとは言い切れませんから、少し心配になって。そうしたら、これが一枚、ひらひらと。中では何か啜り泣きが聞こえて、覗いたら品の良さそうなお嬢様が。・・・・外に大きな家を構えている様な血筋の方が一人でここに尋ねて来る訳もありませんから、家の方を探して、連れて帰って頂きました」
「・・・・・・ありがとう・・そうしてくれたのが、セツで良かった・・」
セツなら、そういった事を面白おかしく吹聴して回るような事は絶対に無いからだ。そういった噂が流れるのは、今の辰伶にとってもあまりよくない。セツはそれを充分に理解してくれている。はホッと胸を撫で下ろした。
「・・・・辰伶様も、罪なお方ですね。早く誰ぞと結婚して下されば宜しいのに。ね」
セツが含みを持った声色で、ぽつりと呟く。の肩が、ピクリ、と揺れた。セツはそれを目の端で捉え、静かに言葉を続けた。
「・・・想いを、告げられたのですか?」
「セツ・・・」
そうして、は昨晩の経緯を、自分の涙の訳を、セツに少しずつ、ゆっくりと話して聞かせた。
が今までどんなに泣いても、胸に詰まってかたとも動かなかった苦しさが、ひとつひとつ言葉にする毎に、聞いてくれる人がいるという事に、少しずつだが淀みなく、流れる様に軽くなっていった。
なのにそれに反して、セツの体はみるみる怒気を纏っていく。話し終わった時、ふいに立ち上がったセツに、は戸惑い問うた。
「ど・・何処へ?」
「・・・辰伶様を叱りつけて参ります」
「え!や!何故?!」
慌ててセツのエプロンの裾を掴み、今にも飛び出しそうな勢いの良さをなんとか止める。セツはそのままその場でじだんだを踏んで辰伶を罵った。
「やる事やっておいて肝心な時にその有様ですか!男として最低ですよ!そんな肝心な時にそのまま行かせるなんて!情けないにもほどがあります!」
キーッと歯を剥いて我が事の様に怒るセツの姿に、は戸惑っておどおどと問い掛けた。
「あ、あの、セツ、」
「あなたもですよ!そういう時はにこりと笑ってかわすくらいのいつものしたたかさは・・・」
ばっ!と自分に向いた矛先に、は一瞬怯んだが、セツが放った文句の言葉尻が、すぐにしなしなと勢いを失うのを見て、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・無理ですよねえ・・本当にもう・・揃いも揃って、不器用なこと」
セツは、戸惑っているの顔を見て、しょうのない、といった風にまた吐息を漏らし、の膝元に座り、顔を見て、言った。
「・・・・あなたが、想う人と幸せになって欲しいと、私が願っても、その願いは、叶えられませんか?」
「セツ・・・・」
「私はあなたを歳の離れた妹のように、いつも大切に想っています。・・・・小難しい事柄は、それこそ、男に任せておけばよいのです。肝心なのは、あなたがどうしたいか、でしょう?」
セツの言葉は、痛いほどの胸に染みた。
だが、だからこそ 。
「でも・・辰伶様のお家柄も、お立場も、私の様な身分の者には」
「だから!とも言えるのですよ?今の壬生にとって、身分がどうの、と、そういう事に囚われず、想う人と結ばれる、そういった自由な姿は、今後を担う壬生の若い者にとって、とても良い変革をもたらします。古い方々にとっても、この時代の変わり目、いっそ清々しく映ることでしょう。私が言うのですから、間違いありません」
ぐっ、と、力を込めてを見た。
こういった物言いは、こうなる以前の壬生も、そして今の壬生をも、したたかに生き抜いて来たセツだからこそさまになる。
鼻息荒く言い切ったセツの頼もしさに、はふ、と、笑顔になる。
その笑顔を見て、セツが上目遣いにいたずらめかした視線で問うた。
「・・・良い夜でしたか?」
そう問われて、は顔を真っ赤に染めて戸惑うしか出来なかった。
「・・・・セツがそんな事聞くなんて・・」
「あら、可愛いの初めての密事ですもの。どんなだったかちょこっとくらい聞かせてくれても」
「もう!恥ずかしいからやめて!」
顔を真っ赤にして拗ねるを見て、セツは、穏やかに微笑んだ。
そして、同じ女として、今、一番に伝えたい気持ちを、言葉にした。
「・・・忘れないでね。あなたの幸せを心から祈っている人がいる事を。そして、あなたとの初めての夜を、生涯忘れないと愛おしむ男がいる事を・・・」
「・・・・セツ・・」
「・・私達女には、生き難い世の中でも、自分の気持ちに正直に在る事は、決して出来ない事ではないのよ。まして、以前の壬生とは違う。今のあなた達には、変えていく事が出来るのだから・・・」
「・・・・・・」
深い慈愛を持つ瞳で諭されて、はゆっくりと、頷いた。その拍子に、一杯に溜まっていた涙が、ぽろ・ぽろりと次々零れ落ちる。そんなの頬を、セツが懐からハンカチを取り出し、優しく押さえてやる。
「・・さあ、食べて。天むす、好きでしょ?」
明るくそう言うと、の横に腰を降ろし、自分の分の包みを開け、昆布の乗ったむすびを頬張った。は、美味しそうに食しているセツの横顔を見て、同じ女官として、実は今までとても聞きたくて、でも聞けなかった事を、ひとつだけ、問うた。
「・・・・・セツは、想う人と、一緒になれたの・・・?」
問われた事柄に、セツは口の中の米粒を飲み込むと、じっとの顔を見つめた。表情は微妙で、どう答えようか迷っているようでもあった。
だがそうして一時ののちに、に返って来た返事は、至極爽快なものだった。
「・・・私達は結婚してから相思相愛になったのよ」
きょん、と目を見開いてセツを見るの表情が可愛くて、セツは豪快に、そして気持ち良さ気に、声を立てて笑った。
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