アキラ





「・・・・・・・抱きしめても、いいですか?」

の、息を呑む気配がする。
恐怖と、アキラを求める気持ちとが、心の中でせめぎあっているのだろう。
知らず喉が渇いて、返事が出来ない。

「・・・・・・・」
アキラは、そっと、優しく、の体を抱きしめた。
肌と肌とが、触れ合う。
お互いの温もりを直に感じて、はそのあまりの心地良さに思わず目を閉じ、ほう、と息を漏らす。
それを合図とするかのように、アキラの、を抱きしめる手に力がこもる。

そのまま、の体を開いて、押し入ってしまいたかった。
        だが、アキラは出来なかった。



「・・・さん、・・・、と、呼んでいいですか?」
体を少し離して、とても静かにアキラが言った。
は、こくっとゆっくり頷いて、アキラの次の言葉を待った。
「・・・私の事も、アキラ、と、呼んで頂けますか?」
「・・はい」
が、とても嬉しそうに微笑んだ。
つられて、アキラも笑みを返す。
そして、すっとから離れ、部屋の隅にあった茣蓙を持ってきて、座っていた囲炉裏の前に広げ、その上に上衣を敷いた。
そしてじっとアキラの動きを黙って見つめていたの前に座り、のはだけていた着物の前を閉じ、帯紐で腰を止めた。はされるがままになっている。
そして自分が敷いた上衣の上に横になり、を招いた。
「・・・
が呼ばれるがままにゆっくりとアキラの横に寝転ぶと、アキラは横に置いていた自分の上着をと自分の上にかけて、そうしてからを両手でしっかりと包んだ。
はずっと黙ったままだった。

しばらく、パチパチと、薪の爆ぜる音のみが小屋の中を支配していた。
も、アキラも、先ほどまでの高ぶりはなりを潜め、今はただ、お互いの体温に浸っていた。


ふと、が静かに囁いた。
「気持ちいい・・・・人の肌の温もりって、こんなにも心地良いものなんだね・・・・」

「あたたかい・・・」


の言葉に、アキラは心でゆっくりと頷いていた。


「・・・私は、欠陥品なんですよ」
「・・・え?」
アキラが、静かに話し始めた。

「・・・人を信じるという事が、自分にとって困難でならないんです。心を開く事も、受け止める事も」
「・・・・・・・・」
「一度だけ、女性と床を共にした事があります。ただ、その行為に対する興味のみで。・・・後に抱える気持ちが、とても苦しく、苦々しくて、私は、・・・・・・・知らないんです。女性にそういう想いを抱いた事がない。だから、女性を好きになるという事が、どういう事なのかも・・・」
「私も、知らなかった。アキラに会うまで・・。・・・アキラが初めて。初めて、男の人に、抱かれたいって、思った・・・」
アキラの胸に顔を埋めて、黙って聞いていたが、ふいに顔を上げ、アキラを見て、言った。
アキラも、の方に顔を向ける。真剣なの視線を受け止めて、やがて、ふっと、笑った。
「・・・・・・・に好きといわれるのはとても嬉しいですよ。今まで女性から真剣に、好きだと言われた事はありませんし、」
「うそ」
間髪入れずにが言う。口元が拗ねたように膨らんでいる。
「・・・本当ですよ。貴重な経験をさせて頂きました」
クスッと笑って答えたアキラに、は納得行かないという顔でじっと見つめる。
アキラはの背に回していた手で、の髪を優しく梳いた。
「・・・・・可愛い顔が台無しですよ」
可愛い、と、言われた事と、アキラの優しい仕草に、の頬は勢いよく赤く染まっていった。

「・・・・あなたを抱きたいと思います。可愛いとも。・・・出来れば、これからずっと、あなたが微笑んでいられるように、自分が支えてあげられたらとも・・・・でも、それが、が私に向けてくれる、「好き」の形と、同じなのかどうか、今はまだ決めかねるのです」

アキラが精一杯、今の自分に答えようとしてくれているのが解ったので、はただ黙って、話に耳を傾けていた。アキラは生真面目に、黙々と話し続けた。
「私は、不器用で、偏屈な男です。それに気付くのにも、とても時間がかかっています。沢山の人に支えられて、諭されて、やっとなんです。自分の中にある「情」の形を理解したのも、本当に最近の事ですから・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・こんな風に自分の事を素直に話せるのは、きっと、の力です。あなたが私に対して、一生懸命だから・・・私を、求めてくれるから・・・」
が、つと、アキラの背中に手を回した。肩口をきゅっ・・と、気持ちを込めて抱いた。
アキラがそれに答えるかのように、顔をに向けて、髪を梳いていた手での肩を抱く。
「・・・・・・あなたに対して、あなたが私に向けてくれるほどの「好き」を、この先私があなたに向ける事になるかどうかも、今の私には分かりかねます。ですが       ・・・」
「・・いい・・。今、こうやって、私を・・抱きしめてくれてる・・。そうしたいと、思ってくれたからなんでしょ?・・・今は、それで本当に嬉しいから・・・今はそれで充分・・・・」
そういうと、再度アキラの胸元に顔を深く埋める。
そしてアキラも、そんなを強く抱きしめた。

そうして二人は、お互いの体温をゆりかごにして、いつの間にか眠りについていた。
アキラもも、こんなにぐっすり眠ったのは本当に久しぶりだった。






「アキラ        !見て見てホラ!」
バターン!と小屋の戸が開き、が駆け込んでくる。
アキラはがいつの間にか出掛けていた事にも気付かず熟睡していたので、戸の開く大きな音との声に驚いて跳ね起きた。
「あっ・・!は・・びっくりしました・・。いつ起きたんです?私とした事がまったく気付かず・・・なんです?」
はアキラの顔元で手を後ろに回し、喜色満面な顔だけを突き出して、『後ろの手になにを』と聞かれるのを今か今かと待っている。
昨晩の高ぶった色の気配は完全になりを潜めている。今はもうただの子供のようだ。
アキラは苦笑しつつ体を起こし、敷いていた上衣を取り、羽織った。
「・・どうしたんです?その後ろのものはなんですか?」
すると、が待っていました!とばかりに後ろ手に持っていたものをアキラに差し出した。
「ほら!すごいでしょ〜!」
兎だった。アキラは驚いてを見た。
「すごいですね。どうやって獲ったんです?」
「走って!」
「はあ」
「追っかけて!」
「・・・・・・」
「こう、やって、どーんって!すごい?!」
「・・・・・・・・・・すごいすごい」

まったく解らない・・・・・・・・。
はしゃぎようは可愛いですが・・・・・・。


は、そんなアキラの呆れた表情にまったく気付かず、思わぬ豪華な朝食だね!と有頂天になって鍋と兎を持って、再度外へ出て行った。
後ろ姿を見送って、が着物を着替えている事に気付いた。ふと見ると、昨晩貸してやった自分の着替えが枕元にたたんで置いてあった。
すっと、それを手に取ったアキラの動きが、止まる。
意識が昨晩のの温もりに添いたがっているのが分かり、ふと、昨晩抱きしめたの体に気持ちを泳がせた。

           ・・・・・・・

すぐに、自分の奥から中心に高ぶってくるのが分かり、慌てて着物を荷物の中にしまい、羽織っていた上衣の前を止めた。
顔が熱くてたまらなくて、深く深呼吸を繰り返す。

アキラはそんな自分が滑稽でたまらなかった。
自分に対し大声で毒づきたくなったが、我慢した。
気持ちを落ち着ける為に、素早く体を動かした。茣蓙をたたんで、元あった場所に置き、囲炉裏の火を再度熾す為に小屋の隅に薪を取りに行った。

そして、動きながら考えた。

これからこんな状態に出来るだけ陥らないようにしないと・・・・
身が持ちません・・・。自分が男だとこれほど痛感する時が来ようとは・・・・。

滑稽だ、本当に・・・などと、一人ごちたアキラのその心の奥の深いところで、今まで感じた事のない仄かな喜びがこんこんと湧き出していた。
アキラはその仄かな喜びにずっと浸っていたいと思った。が、そうもいかない。
そうと思わずとはいえ、に対し、こういう状況になってしまった今、自分達と壬生一族との戦いの事、そしてほたるの事を、黙っているのはに対してこの上なく不実な気がした。

今日、言おう。

アキラはそう自分に言うと、荷物から火打石を取り出し、薪に火をとかがんだ。
石を打ち鳴らす。
昨日はすぐ点いたのに、今日はなかなかうまく点かなかった。
何度も何度も無心に手を動かした。

自分の話を聞いた後のの反応を考えたくなかった。
ほたるならきっと、相手の反応など何も考えずすぐ口にしてしまうんでしょうね。
そう思って、ふと、なんとはなしにほたるに会いたくなって、そんな自分を嗤った。






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