「フリック!」
その瞬間、ディックの少しハスキー目の低い声が、オレを鋭く窘めた。オレは慌てて、手元で撓んでいた手綱をグッと引き直し、左に並ぶディックを見た。
「何をぼんやりしてるッ!来るぞ!」
「 スマン。・・・ハァッ!」
オレはディックに対し軽く頷くと、勢いよく馬の腹を蹴った。そして、木刀を斜に構えて、正面から来る馬上のカミュー達騎士団の面々を、やはりこちらも馬上から強く見つめた。視線がかち合う。
戦闘開始だ。
今日の正午過ぎ、それぞれの騎馬・歩兵部隊から、精鋭主力陣のみ十数名ずつ選抜され、結成された赤軍・白軍に、それぞれの軍師としてアップルとクラウスが付き、屋外訓練場の東と西の端に別れ、大がかりな模擬戦が行われる事になった。
木刀を手に、お互いからの段取り口裏合わせ一切抜きの、本番さながらな真剣勝負。
模擬合戦の目的としてシュウが掲げた名目は、正面からのみの泥仕合となった場合に、個々がいかに冷静に立ち回り、指揮官からの合図や伝令に目を配りつつ、眼前の敵に巧く対処し壁を突き破るか 、それを、今後待ち受ける、更なる大きな合戦に向けて、戦歴不足の若い兵士達各々が、勝利に向けて自身の中でイメージトレーニングしやすくする為、だ。
ハンフリーが正面の兵列をその剛力で大きく乱した事で、城門の外壁の上、左側から大きな歓声が上がる。この訓練に参加させてもらえなかったハンフリーの歩兵部隊の面々だろう。
それぞれが、自分達の諸将を心から尊敬し、心酔している。四方八方から沸き上がる、空が割れんばかりの応援や歓声の声がそれを証明している。
「ディック!」
呼び声に振り向いたディックに対し、かき回せ、と、目線と右手の人差し指のみで合図し、二手に別れる。後続の連中と共に波のように蛇行しつつ、馬上の勢いで赤軍の木刀を次々弾き、人波を捌いて更に突進する。
オレの騎馬隊に課せられた白軍・軍師アップルからの指令は、思うより早く突入して来た赤軍・カミュー達騎士団の騎馬の足並みを攪乱し、後方から突撃を控える白軍・バレリア達歩兵隊の道を、正面から弓なりに整える事だ。
だが、そこはやはりどちらも選び抜かれた精鋭達。その足並みを乱す事も、横から小出しに突入してくる赤軍・ハンフリーの歩兵隊の面々を蹴散らす事も、そう簡単には許してはもらえない。
クラウスが、歩兵を騎馬の周囲に細かに散らすという采配をとった事が少し意外だった。双方に実力差が殆どなく組まれているというのに、その上で戦力をバラバラに裂いて出る、というのは今、ここでは大胆な采配と言えるだろう。さすがは剛胆で知られるキバ将軍の息子。その潔さと雄々しさは、軍師とはいえ父親に引けを取らない。
さぁ、後に控えるは、ビクトールの歩兵隊か、それとも 。
先を想像し、その混戦模様を思うと、軽く武者震いがする。共に戦っている同盟軍の兵士達の中にも、真剣に戦い雌雄を決してみたい、と思っている相手は多い。高揚する猛々しい感情を今は抑え、頭の中の一部分をアップルからの指示に向ける。
個々の実力を芯から信頼し、だからこそ必ず勝利してみせよう、と、持てうる限りの力で正面の同胞に挑む。
だがそれは、こちらもまったく条件は同じだ。
左右に分かれたオレの騎馬隊が、ちょうど赤軍を半分ほど抱え込んだところで、その中央に向けて挟み込むように突進を始める。人の力では抗いようのない馬の足の力で、無理矢理に道を裂く。カミューの騎馬隊の足並みが、オレ達の動きに虚を突かれ瞬間乱れる。
これは、殆どが傭兵上がりのオレ達の隊ならではの動きだ。騎馬の足並みを揃える必要は無い。オレ達は個々の判断でそのタイミングを読み、俊敏に行動に移せる。この突進が今はただ攪乱を目的とする為だという事も功を奏した。
だがそこはカミュー達騎士団の面々も、だてに幼い頃からそれのみを目指し、統率の重要さを鍛え上げて来た訳じゃない。皆が瞬時にカミューを見、カミューはそれに一瞬の目の動きで応えた。個々の戦力もそれぞれ騎士の魂に恥じるものではないとばかりに、各々が勢いよくオレ達に向かい方向を転じ、向かって来た。
そうと理解する頃には、混戦が開始されていた。あちこちで木刀のかち合う音が激しくなる。絡み合う人と馬の合間を縫って、カミューの騎馬隊の中では一番年若なセイゼルが、オレに真っ直ぐ向かって来た。すれ違いざまに馬上から木刀をオレの胴に向かい斜めに振る。オレはそれに対し瞬時に受けの構えを取った。馬が並ぶと同時に眼前で木刀が激しくかち合い、強い振動が右手を襲う。だが、まだまだ!
「フリック殿!手合わせ願いますッ!」
「セイゼル、手加減はせんぞ。オレに打ち勝とうというなら、全力で向かって来い!」
「言われなくとも!ハァッ!!」
ガァンッ!と、木の刃が激しくしなる。余韻をその手首に残しつつ激しく二度、三度と剣戟を交わす。打ち込みは激烈で、だがそのせいか普段よりも甘くなる箇所が生まれた。
「気合いが先走ってるぞ・・そう力むな!」
瞬間、脇の下から突き上げる様に盾でセイゼルの顎を突いた。ゴッと鈍い音が耳に届くと同時に、セイゼルはバランスを崩し馬上から落下した。上手く落ちたか、と、目の端で確認している隙に左から木刀が突き出される。間一髪身を捩ってかわし、そちらへ上体を向けると、そこにはカミューが居た。
「セイゼルへの指導、感謝します。今度は私と、如何ですか?」
「 真剣に、な」
オレ達は双方共に口の端で不敵に笑い、腕に渾身の力を込め、互いに向けて木刀を振り上げた。
オレ達は数日内に、同盟軍の命運を左右する、大きな合戦へと向かう事になる。
ハイランドがマチルダ騎士団を手中にした事で、敵軍の兵力は誰の目にも膨れ上がった。同盟軍が不利に感じられるその現状を肌で感じる事で、必要以上に過敏になり、修練が思う様にいかず、煮詰まっている兵士達が思いの外、多い。
シュウがここに来て、この模擬戦を、この先戦場へと向かう今一番必要な訓練だと、皆の前で演説ぶいたその最大の主題は、同盟軍全ての兵士達が、自分達が王国軍との戦争の、その決戦の終盤へ向かっていることを芯から意識し、自身を心身共に引き締め、そしてその士気を勝利へと強く向ける為、だ。
だが、まあ、どんなお題目を並べたててはいても、その意味を深く理解出来る者ばかりじゃない。一旦囚われた死の恐怖からは簡単には逃れられない。だから、この模擬戦が開催された本当の意味は、分かりやすく言えば、死の恐怖から逃れようとするのではなく、それを新しい鋭気で塗り込めろ、という事だ。
言ってみれば、これは、一種の祭りだ。
シュウから呼び出され、主立った将の面々がその前に揃った時の、シュウのふてぶてしい表情から、オレ達は全員、呆れたように吐息をつき、目を見交わした。この男は駒としてのオレ達の使い道を、その味方に対してまで知り尽くした上で、とことんまで使い切るつもりらしい。話は要点のみで終わり、オレ達は全員苦笑しつつ、メンバー選出に取りかかった。
出来るだけ派手にいこうぜ。
全員が不敵に笑い、両軍に別れた。当然だ。
これは、祭りだ。それが証拠に、楽しくて仕方がない、と、皆が生き生きとした顔で、所狭しと暴れ回っている。
持てうる限りの技巧を披露して、大立ち回りを繰り広げる。
一旦泥仕合となってしまうと、指揮系統が分断されたような錯覚から生まれる、一瞬の動きの迷いが、遅れが、眼前の敵との勝敗を分ける。
剣も鎧も血にまみれ、限界を超えた体の動きにゼイゼイと喉が鳴り、必死で呼吸を繰り返し、目でのみ周囲の敵を追い、腕を振り回す。その為、思考するという行為が何処かへ置き去りにされる。
自分は今どこにいる?
何をしている?
何処へ動き、何をしたらいい?
戦歴の浅い者達こそが陥りやすい、感覚の罠 だが、迷いが脳から体を支配する前に、我らを見よ、と。
だからこその少数精鋭でのこの模擬戦だ。選ばれなかった自分達に、今、足りない何かを、
目の前で繰り広げられる精鋭達の闘いの、その底力を、
目から意識で学ぶ事を真の目的とした、一人でも多く生き延びる為の、
これは、訓練という祭りだ。
城の展望台、外壁の上、窓、屋上、到る所から、万の真剣な視線が突き刺さる。それぞれが、眼前で繰り広げられる剣技の鮮やかさ、体術の凄さに魅せられ、感極まり、拳を握りしめ獣の咆哮の様な歓声を上げている。
精鋭達の一挙手一投足に全神経を向け、そこから生き残る術を学び取ろうとしている。
確かに、イメージを鍛える事も大切な訓練法のひとつであり、経験の足りない兵士達にとってはかなり重要な事でもある。だが、ただ上から眺めるだけの彼等が考える以上に、大立ち回りを繰り広げるオレ達にとっては、かなり大変な合同訓練となった。
実力が相応なら決着までには思うよりも時間を要する。模擬戦だというのに、剣戟のその激しさ、互いの真剣さに思わず知らず、本気になってしまっている。
選び抜かれた精鋭達は、その戦歴からみな平素は肝が太く、どんな戦況に置かれてもどれだけ血を見ようとも、図々しいまでに狼狽えるという事がない。
人数が多ければつけ入る隙も相応に生まれるだろう。だが、ただでさえ少人数の上、互いに互いを知り尽くしている者が多い今のこの現状では、正直、やりにくい事この上ない。
気を抜く暇は一切許されない。全力で全力に応えるのみ 。
模擬戦開始からすでに一時間が過ぎようとしていた。
泥仕合を目的とした今回の訓練で、現時点ではそれは格好の状態だった。騎馬も歩兵もゴチャゴチャに入り交じり、そこにはそれぞれの命令系統からの指令や陣形などは存在しないようにも見受けられる。
だがこれが『戦』である以上、そこには確実に、勝利への命運を左右する、軍師の奇策が存在する。
赤軍側の銅鑼が突如激しく打ち鳴らされた。二回、空に音が高く響き渡る。と、ほぼ同時に、白軍側の銅鑼も打ち鳴らされた。こちらは三回。
赤軍はカミューの騎馬隊の波に紛れて、ハンフリー達の歩兵隊を一旦後退させた。
白軍はハンフリー達を追い上げる様に突進し、その後方から更にバレリアの歩兵隊を投入する。オレ達の騎馬隊は波のようにうねりつつ両端に向かい拡散した。ふいに中央が開ける。
それを機に、ビクトールの歩兵隊が動いた。オオーッと怒号を上げ、中央に勢いよく突進してくる。
来い、と。誘うように。
銅鑼の音に一瞬沈黙し、固唾を飲んでその展開を見守っていた兵士達のその歓声が、ここに来て一際大きくなる。
祭りの一番の見せ場だ。ビクトールが最も得意とする、肉弾戦。
ビクトールの歩兵隊が突っ込んで来たと同時に、バレリアの歩兵隊はその正面ギリギリまで、開けたそこを突っ切り、かち合う前にサッと両翼に別れた。そのすぐ後方から、ビクトールの部隊に合わせ、体力を温存してきたギルバートの歩兵隊の面々が正面から迎えうつ。バレリアの部隊の目的は、赤軍の懐に飛び込み、後続の部隊が続かないよう、後衛の攪乱。オレ達は急ぎそのサポートに回る。
アップルの目的は、ビクトールの歩兵隊の孤立だ。彼等の歩兵としての底力を、その気力尽きるまでここに披露させる為。
だがその前に、もちろんこれは『戦』だ。だからアップルは、それでビクトールの部隊が潰れても一向に構わない、と言わんばかりの猛攻を、再度鳴らされた銅鑼の音と共に、一斉に中央に向けた。
だがクラウスも、そう簡単に赤軍の主力を失う訳にはいかない。満を持して、ハウザーの騎馬隊が並列に駆け上がり、瞬く間にハンフリーの歩兵隊と並んだ。はなからそう組まれていたと分かる俊敏な動きで、追われていた筈のハンフリーの部隊はこちらに向かい身を翻し、木刀を構え直した。
瞬く間にあちこちで、互いの陣形を崩そうと激しい攻防戦が始まった。選び抜かれた精鋭達が、各々が単身で目の前の戦友と、その雌雄を決する為の一騎打ちを繰り広げている。訓練場内を支配する地響きと砂埃が、皆の戦闘行為のその激しさを物語っていた。
オレは両翼から上がって来たマイクロトフの騎馬隊と合流し、バレリア達のサポートに回っていたが、こう混み合ってくると馬の足がおぼつかなくなる。サポートをマイクロトフ達に任せて、オレ達はカミューとハウザーの騎馬隊を分散させるべく、こちらに誘い出すように少しずつ後退した。
ふと、戦いの熱気で火照った頬を涼やかな風が撫でた。今はその心地良さに浸る間も無いが、それでもつと、目蓋を柔らかく閉じた。もちろんすぐに目を開けたが、拍子に、目の端に小さな影が映った。
その兜の隙間からそよぐ黒髪。
ふいに左からヒュッと風を切る音がして、本能から右に身体を捻った。ガツッ!と左耳の端を激しく木刀が抉った。くそっ!気を逸らした・・!
「戦いの最中に、よそ見とは余裕ですね!」
見れば、またも騎士団の一人、ホークスだった。・・・普段から訓練を共にしているせいで、オレとの剣戟の結果、落馬させた者も多い。今この時こそ、という事だろう。
だが、そう簡単にやられてやると思うか ?
「・・・・悪いがまだまだ余力は残ってる。悪かったな、気を反らせた。ハァアッ!!」
オレは思いっきり手綱を引いて馬の身体を方向転換し、ホークスの馬と頭を同じ方向に並べ、即座にホークスの右脇腹に低い位置から木刀を叩き込んだ。ホークスは利き手からまともに受けづらい位置と瞬時に判断し手甲で受けた。払うように軽く押し返しつつ上体をこちらに捻り、盾を右に構えると同時に右手の木刀を反転させ、盾で木刀の柄を押し、オレの左脇腹を突く。が、当然見えている。
ホークスも初撃はかわされると見越していたか、サッと木刀を引き、再度持ち替えつつそのまま気合いと共に盾を上体ごと力任せに押し込んできた。こちらも盾で受けると、その勢いの凄まじさからガギッ!と激しい衝突音がした。摩擦でパッと火花が散った。しばらくそのまま力で競り合い、タイミングを読みサッと上体を離し、剣戟。 どうも、騎士団は攻撃の流れを整えたがるクセがある。
オレは剣戟の隙をついて馬の腹を蹴り、頭ひとつ飛び出した先でホークスの馬の横っ面を平手で打った。驚いた馬が嘶いて前足を蹴上げ、ホークスがバランスを崩したところを見計らって木刀でその腹を力任せに押した。自分の体重とオレの力に負けて落馬しそうになり必死で手綱を掴んだが、オレはそれを機として彼の手首を打った。
騎士団は普段の厳しい訓練から、上手な落馬の仕方を嫌というほど身体で学んでいる。オレはホークスが上手く落ちた事を確認し、すぐさまホークスの馬の尻を蹴った。空になった鞍を乗せて、ホークスの馬は赤軍陣営へと駆け戻っていった。
オレは再度馬の首を反転させて、白軍の陣営の方へと後退しつつ、さっきの小さな影を横目で探した。
何をやってる、と叱咤する声が自分の中から聞こえる。
訓練とはいえ、みんな真剣だぞ、気を抜いたらその一瞬でやられる。・・・・・・分かってるが、つい。
と、いきなり凄い力で片足を引っ張られた。・・・っ!!?
「!うっ・わ・・・・・ぐッ!!」
オレはみっともなく横っ腹から地面に身を投げ出す格好となって落馬した。痛みに引きつる半身を抑え、慌てて木刀を頭上に構えると、ハンフリーが仁王立ちになってオレを見ていた。
「・・・・・・・・ハンフリー、」
「・・・そこで暫く反省していろ」
ムッとした顔で一言、それだけ言うと、オレの馬の尻をはたき、白軍陣営に戻させ、すぐさまオレに背を向けて中央の乱戦の中に突っ込んでいった。
「・・・・・・・・・・・・・痛つっ・・・ハァ、・・」
オレは苦笑と共に、ひどく打ち付けた横っ腹をさすった。変な角度に捻ったか、左肩が痺れている。暫くはまともに動きそうもない、か。
自業自得と言えばそれまでだが・・・都合が良すぎる・・気もする、な。
オレは脇腹を抑えつつ、自分のすぐ目の前で忙しなく行き来する人と馬の足の合間にそのまま座り込み、もうもうと沸き上がる砂埃の中、視線だけハンフリーの背中を追った。・・そういえば、ハンフリーは陣営の近くへと下がっていた筈だ。単身ここまで上がってきたのは何故だ?
不思議に思いつつそちらを見ていると、その周囲にちらほらとハンフリーの部隊の面々が見える。なるほど、ビクトールの部隊の援護にまわったのか。それで・・・・ ・・・・・・・・・・・あ、
見付けた。彼女だ。
間違いない、と瞬時に確信を得た。
遠目にも、周囲の兵士とのその身長差に唖然とする。元々そう身長が高くないせいもあって、屈強な戦士の群れに混ざってしまえばもう何処に居るかの判別すら難しい。
精鋭のみが集められた今のこの現状の中では、ガタイのいい女兵士がどうしても目立つ。力自慢の凄腕の持ち主も多く、だからこそ頭ひとつ小さいは、どうしても、必要以上に華奢なイメージが強くなる。
だが、だからこそ、とも言えるのかもしれない。初めて目にしたのその動きは、ハンフリーやビクトールが一目置くのも容易に理解るというほどに、思うよりも、なんというか、・・・・・凄かった。
の剣捌きは、受け流す事に徹している時はまだなめらかで可愛いが、攻撃へと転した時のその切り込みの凄まじさは、その華奢な体の何処からそんなエネルギーが瞬間的に爆発するのか、と不思議でならないほどの激烈さだった。
こうと気を込めた時の踏み込みがハンパじゃない。そのくせ、フッとそつなく右へ左へと俊敏に身を翻し、屈強な戦士達の木刀を身軽にかわし、ふり向きざまに、相手の手首に峻烈な一閃を決め、木刀をはたき落とす。そして、返す刃の先で、肩先に激しく突きを喰らわした。
ただただもう、見事としか言いようがない、戦いぶりだった。
「・・・・・・・ハンフリーの奴・・」
オレは、半ばヤケ混じりに、右手で頭をがしがしと掻いた。
・・・・・・・・気が利きすぎるのも問題だな。
ハンフリーは、オレが要らぬ杞憂にうつつを抜かす必要などないほどに、は強いんだと、知らしめたかったのだろう。
そうして、自分が足元を掬われているようじゃ、話にならない、とも。・・・・・・・まったくだ。
気恥ずかしさに、耳が熱くなる。オレは、本当に、・・・・・・
片手で頭を抱え、蹲っている自分の足元が軽く翳り、オレはふと顔を上げた。オレとは二手に別れ、バレリア達の部隊を挟み、その向こうに行っていた筈のディックが、いつの間にかこちらに寄り、馬から降りてオレの方を覗き込んでいた。
「ケガしたのか?大丈夫か?」
気遣わしげに、今までオレが抱えていた頭部にケガがあるのかと、両手でオレの髪の間をわしわしと探った。ディックの心配にアテられ、オレは更に恥ずかしく、情けなくなった。ハァ・・とため息をつき、項垂れて、ボソリと今の胸中を呟いた。
「 いや、・・・・・・・・・・・反省してるんだ」
「は?なんだそりゃ。・・・で?戦えるのか戦えないのか、どっちだ」
左肩を持ち上げ、ゆっくりと廻す。・・・痺れは無い。脇腹も、打ち身程度だ。障りはない。
気力は、・・・・・・・・・
彼女の姿は、もう、見えない。 が、中央で白軍が圧されているのが分かる。
「・・・・・・・・・・戦える」
オレは赤軍陣営の方に目をやり、バレリア達の戦況を確認して、そちらでは白軍が圧している事を見て取った。ならば、と、ディックに、オレ達は中央の援護に回ろう、と指示を出した。ディックは頷き、すぐさま馬上の人となり、伝令に回った。
オレは、木刀をしっかり構えなおし、勢いよく混戦の中央へと突進した。
この模擬戦はその2時間後、勝敗がつかぬまま、シュウの合図で幕を閉じた。
訓練とはいえ、参加した者も、応援していた者も、お互いの磨き抜かれたその素晴らしい戦技を心から讃え合い、賞賛し合った。その日城内は夜半まで、異様な興奮と熱気に包まれていた。
そうして、その気概を充分に煽られた兵士達はその後、決戦の日へと向けて、鍛錬にその全精力を惜しみなく注いだ。
迎えた出陣の日。
その朝にオレは、が城に残ることを知った。
あの夜。
オレの為に生きろ、と、言いたかった。
待っていて欲しい、なんて、そんな傲慢な。
だけど、待たなくていい、なんて言えるほど、人間が出来ちゃいない。
言い淀んだオレを、彼女は強く、抱きしめた。
だから、
オレは、そんな彼女にどうしても、キスを 彼女の心に今を・・・残したくて。
オレが、いる、と。
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