「おぅ〜いフリック〜飯行こうぜ飯〜」
自室で少し休憩を取っていたオレを、暢気な口調でビクトールが誘いに来た。
オレは、寝不足で重い頭を無理矢理ベッドから起こし、無遠慮にドカンと戸を開けてこちらへ歩いて来るビクトールをギロリと睨み上げた。だがビクトールはなんの躊躇も無しに、未だベッドの上にいるオレの傍らに立った。
「なんだよお前最近元気ねぇなあ。暇さえありゃ部屋に篭もりやがって。勢いが足んねぇぞ勢いが!オラ!飯行くぞ!」
「・・・・寝不足なんだよ。ここんとこ」
ハァ、と、険しい表情で重いため息を付くオレを、ビクトールがからかうように、ニヒ、と、笑って言った。
「楽しい寝不足とはまたちょっと違う感じだしなぁ〜。楽しい寝不足が恋しくなって来たか?あぁ〜ん?」
「・・・・・・・・」
オレは無言でビクトールの横っ腹に蹴りを飛ばした。奴は不意打ちを食らって少しよろけてしまい、しかし顔は今度は子供の泣き顔の様に大げさに歪めてオレを見ている。
「腹減ってんだから腹蹴んな!響くじゃねぇか!朝からずっと隊の奴らと体動かしててもう限界なんだよ労ってくれよ〜」

・・・・ん?
「・・朝から?って、」
「ん?ああ、こないだの敗戦以来、ぽっかりと間が開いちまったからな。体がなまっちまうってんで、ちょっと体術訓練を・・・いやぁ、の強ぇ事。ほんのちょっとの隙を付いて締めに来やがるから。ま、最後にゃオレが放ん投げてやったけどな」
「・・・・彼女は、その、」
「ああ、まぁ、こないだの事はだいぶん反省してるみたいだったし、オレらもまぁ、水に流して。それに本人がもう、色々吹っ切れたみたいだからな。元気良すぎて、相手するオレらのが参っちまうぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まぁ、アレだな。女はやっぱり、笑ってる顔のが、いいな」

どういう、事だ。

オレは、心の中でひどく憤りを感じて、ビクトールから視線を逸らした。
今、ビクトールが、柔らかく和んだ表情での事を語った、その内容を、オレは素直に聞き流す事が出来ずに、黙り込んでしまった。
そんなオレに対し、ビクトールが怪訝そうに問い掛ける。
「なんだお前。・・・・と、何かあったのか?」

何か?



「・・・・・いや。何も。・・・・・飯行こう。何食うんだ?決めとけよ」
オレがベッドから体を起こしながら言ったセリフに、ビクトールが過剰に反応して、ドカンと腹に溜まるもんにしねぇとな!とか、勢いの良い事を拳を振って言っている。オレは少し複雑な表情のまま、奴の後をついて、部屋を出た。
戸を後ろ手に閉める。









『好き』

にそう言われて、オレは何も答える事が出来なかった。
みっともなく固まったまま、彼女を見送った。

あの晩から、一週間は過ぎようとしていた。
その間、城内で慌ただしく、今後のハイランド軍の動向、そしてこちらの戦力の補強などに、勢力を上げて取りかかっていた。その間、士官以下の連中はとにかく訓練に精を出し、それぞれ戦術に磨きを掛ける事を日々怠らなかった。
食事の時。酒場へ顔を出した夜。他の兵士と触れあうような、少しの時間の合間に、つい、目で彼女の姿を探した。あの晩以来、偶然にも顔を合わせる事が無く、・・・・・・・どうしているのか、今まで以上に、ひどく気になってたまらなかったからだ。
ふと気が付くと、彼女の事を考えてしまう。その事にのぼせている自分が嫌で、いつも以上に雑務を抱え、それに専念した。
夜になって、1人になると、あの晩の彼女の瞳が浮かんで。
抱き留めた体が、その温もりが、オレを支配して。
とてもじゃないが、まともに寝てられない。・・・眠れない。


オレは、返事をしなかったから。
彼女を引き留める事もせず、ただ呆然とその背を見送った。だから。
・・・・・どんなに気になっても、自分から訪ねるなんて、今更、そんな事は絶対に出来ない。
はっきり否定した訳じゃ無くても、・・・・あれじゃ、否定したのと変わりない。




             抱きしめたかった。
あの時、強く抱きしめて、・・・・・そのまま、キスしたかった。本当は。

ひたすら、自分の中で作り出した建前と、心の奥底から沸き上がってくる情欲との葛藤の繰り返しで、オレはこんなに消耗してるってのに。
『吹っ切れた』?『元気良すぎて』?『女は笑ってる顔が』・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そりゃ、いい。その方が。それは、間違いない。・・・・元気がいいんなら、・・・オレがあんな風に見送った事で、彼女が傷付いていないのなら。・・・・それは、その方が、もちろん、いいんだ。

なんだ。そんな、・・・それだけの、
たった数日で笑ってられるような、そんな、






「・・・・・・・・オイ、フリック?」
「あ?!なんだよ!」
自分の考えになんだかもの凄くイラついて、オレは歯を剥いてビクトールを見た。
「・・いや、メニュー・・折れっちまうぞ」
ゆるゆるとビクトールが指さした先に、オレが握りしめたメニューが、半分に曲がって軋んでいた。っと・・!
「す、すまん。えぇ、と、・・ゴホン。・・何食うんだ?」
慌ててその場を取り繕おうと、軽く咳払いして、しらじらとメニューの書かれた厚い紙を整えた。
ああ、もう。止めた。・・・・みっともないな、オレ。
心の中で自分を軽く罵ってから、軽い物を注文して、ふと、戸口の方へ視線を泳がせた。昼時という事もあって、店はかなり混み合っている。レストランの中は複数の話し声が混ざって、存外に賑やかな空間を作り出していた。
はあ、と、軽く吐息を付いて、つい、見渡した。目の端に、見覚えのある数人の輪を捉えて、そちらを向いた。自分の隊の連中だった。
奴らもオレに気付いて、こちらに向かって軽く手を振った。オレもスッと手を挙げて応えた。
オレの隊は、ビクトールの隊のカレダンの様に、オレが不在でも全てを任せられる、ディックという経験豊富な壮年の戦士が居る。ディックもオレ達の砦上がりで、ビクトールにとってもオレにとっても、いわゆる旧知の仲、という奴だった。奴らも今日は朝から忙しく、騎馬での戦陣を、騎士団の奴らと一緒に見直していた筈だ。・・・オレも昼からは少し、奴らと合流するか。無性に体を動かしたい。

「お」
オレが午後からの予定に気を泳がせていると、ビクトールが笑顔で、戸口に向かい手を振った。ふとそちらを見ると、ビクトールの隊の面々も食事に来たらしく、こちらも大人数でビクトールに手を振っている。舌を出したり、蹴りのポーズを取ったりする奴も。・・・・あ。

思わず視線が吸い寄せられる。屈強な大男達の後ろで、黒い髪が柔らかく揺れる。
オレは、視線を合わせるのにひどい戸惑いを感じて、スッと顔ごと逆手に向けた。
「・・・・・・・・・・・・・」
無言であらぬ方に視線を泳がせるオレを見て、ビクトールが机の下からオレの足を軽く蹴った。
「いてっ・・なんだよ」
「なんで余所向くんだよ。お前やっぱ何かあったな?」
「・・・・・・・・・・・」
椅子に深くもたれて座り、斜めにオレを見るビクトールに、オレは机に肘を付いて顎を支えて、言われた事に対し、素知らん顔で無視した。
ビクトールは何も言わないオレの顔を、暫く探るように見つめていたが、やがて、また彼らの方に視線を移した。


しばらく後に料理が運ばれて来て、オレは無言でフォークを手に取り、それを口に運ぼうとした。
その時、ビクトールが自分の分を頬張りながら、呟く様に言った。
「・・・・合流したぜ、オイ」
「・・・・ん?」
合流?          思わずビクトールの視線の先を追うように見ると、オレの騎馬隊とビクトールの歩兵隊の連中が隣り合わせに席を取った為、机の位置をお構いなしに賑やかにやり始めた所だった。
「・・・ああ、まぁ、別に、アイツらは知った顔も多い訳だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言っていて、体が固まった。
「・・・・・・あ〜、よりによってルースの隣か〜」
合わせるように、オレの気持ちをビクトールが代弁した。の席が、オレの隊では、いや、城の中でも、シーナに次いで女に手が早いと評判の奴の隣だった、から。

いや、関係ない。そんな事、オレには。
パッと視線を皿に戻して、フォークを忙しく動かした。・・・ビクトールが、プッ・・と、少し吹き出したのが聞こえた。
「・・・・なんだよ」
「いや、面白ぇな、お前。と、思ってな。葛藤ってなそんなに大事なもんかね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」
ガツン!と、机の下で派手な音がした。
「痛ッ!・・・・たいよオイ・・」
当然だろ。思い切り蹴ったんだ。
オレはビクトールのからかう様な物言いに、当然の報復をした。ビクトールがオレに蹴られた向こう脛を、屈んでさすっている。オレはそんな奴は無視して早く食事を終わらせる事にした。・・・消化に悪い。色んな意味で。

やがて皿の中の料理が半分ほど空になり、ふと顔を上げビクトールを見ると、片手で顔を半分ほど覆い苦笑している。視線の先は、・・・隊の連中だろう。多分、間違いなく。
オレは、見たくない、と、思いつつ、その苦笑の意味が気になって、つい、思わず、そちらを見た。・・・・・・・アイツ・・!
オレは思わず腰を浮かせそうになって、・・・やめた。ビクトールがまたオレの足を机の下で軽く小突いたからだ。様子を見てろ、という様に、愉快そうに目配せをする。オレは深く息を吸って、椅子を乱暴に動かし、座り直した。再度、そちらへ視線を移す。
ルースがの肩に手を置いて、深くもたれかかるような体制で話しかけている。傍目に見てもの表情は、ルースのその行為を嫌がっているのが丸分かりで、眉を険しく寄せて黙々と食事をしている。
ルースも、友人としては良い奴と言えるんだが・・・女癖が悪いのはどうにも、・・・
が無心にフォークを動かしているその表情の険しさを、すぐ近くで見ている筈のカレダン達も、肩を寄せて愉快そうに笑いを抑えている。何だ、一体。
と、早めに食事を終えた様子でがフォークを置くと、それに合わせてルースがの背を覆う様に手を伸ばし、・・・・肩を、抱いた。・・・・あの野郎・・!!
今にも歯ぎしりをし始めんばかりの表情でフォークを握りしめているオレに、ビクトールが呆れたようにぼそりと言った。
「・・・お前、やっぱあっちに座れば?行って牽制して来いよ」
「・・うるさい。構うな」
「・・・いじましい奴っちゃな〜・・・あ、」
「え?あ、」
一瞬だった。
がルースの腕を掴んで捻り上げて、バランスを崩しそうになったところを椅子の足を蹴って背中から転ばせた。ガターンッ!と、派手な音がレストラン内に響く。とたん沸き上がる大爆笑の渦。
こちらでもビクトールが腹を抱えてゲラゲラ笑っている。・・・そうか。こうなるって予想してたって訳か。
「・・・趣味の悪い男だな。言っとけよ」
カラン、と、握りしめていたフォークを皿に放って脱力したオレに、ビクトールが愉快そうに言った。
「いや、オレは二重に楽しかったね。お前と、アイツらと交互に。ごちそうさまでした!」
「・・・・・・・・・ここはお前持ちな」
「いいぜぇ!今のオレは太っ腹だ。さっき奴らからだいぶ巻き上げたからな!」
グッと握り拳を作ってガハハとバカ笑いをするビクトールから視線を逸らして、再度彼女達の方を見た。ちょうど、ドゥエインとが共に席を立ち、戸口の向こうに消えていくところだった。
ドゥエインの肩を軽く支え、楽しそうに談笑している。笑顔の横顔。

「リハビリ手伝ってんだよ。ずっとな。だいぶ回復して来たから、あと一週間も経ちゃ、全速力で走れるようになるだろうな」
「・・・・・・・・そうか。良かった」
「・・・・・・・ドゥエインは女居るぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・構うな」
揶揄を含んでオレにそう言うビクトールに、オレはひどく疲れを感じて、低い声で一言、唸るような呟きを返す事しか出来なかった。
















「うん、だいぶフラつかなくなってきたな」
軽い柔軟の後に上半身の筋トレを済まし、程良く汗をかいた後に、ふとその場で数歩、ドゥエインが一人で歩き、独り言の様に呟いた。回復の手応えに彼の口の端が綻ぶ。
「・・・今無理すると後に響くから。ホラ」
私が介助の為に手を差し出すと、ドゥエインは少しの苦笑を目元に浮かべ、私を見て、からかうように軽口を叩いた。
「お前がこんなにかいがいしい奴だとは知らなかったぜ。少しは加減しろよ。その気になっちまう」
「そんな気、毛ほども無いくせに。私も、アンタがこんなに口が達者だとは知らなかったよ」
即座に冷たい口調でそう言い返すと、ドゥエインは愉快そうに声を上げて笑い、私の手を受け取った。





「結婚しようと、リルに言ったんだ」
私達は少し眩しいほどの日差しの中で、中庭の草むらに座り、リハビリの間に少しの休憩を取っていた。
午後の穏やかな空気のせいか、ドゥエインがいきなりそんな事を呟くように言ったので、私は驚き、目を見開いて彼を見た。

ドゥエインに恋人が居るというのは知っていた。直接彼からそのことについて何かを聞いた訳では無いが、船着場で父親と二人、男並みに力仕事をこなしている長身の美人だと、ロウから聞いた事があった。
そのしばらく後に酒場で偶然ドゥエインと出くわした時に、それらしき女性と飲んでいるのを見た事がある。その横顔は日に焼けて浅黒く、ほりの深いエキゾチックな雰囲気の綺麗な人だった。
言われた事に、頭の中で『リル』のその容貌を少しずつ思い出していると、ドゥエインが続けて、言葉を繋ぐ。
「そのあと、殴られたよ。思いっきりな」
「え!」
「そんですぐに勢いよくこうだぜ。『アタシに今そんなこと言うって事は、この大詰めにアンタ死ぬ気だね?!許さないよ、そんな中途半端なプロポーズ、受け取るとでも思ってんのかい!頭冷やして出直しな!!』、っとに、すげぇ剣幕だったぜ。参った」
更に驚く私に顔を向けて、思いっきりしかめっ面で、わざと金切り声を作って言ったドゥエインの瞳は、それでも愉快そうに微笑っていて、彼がそう深刻に思い悩んでいる様子でない事は見て取れた。だけど、彼女がドゥエインに言ったというその言葉の内容は、私の胸にひとつ、闇を落とした。
「ドゥエイン、アンタ、・・まさか、」
「なんだお前まで。オレは別にそんなつもりでプロポーズした訳じゃねぇよ。・・・お前と、ハイランド兵に囲まれて、オレはあの時死を覚悟した。・・・お前もだろ」
「・・・・・・・」
言われて、神妙な顔でドゥエインを見つめたまま、静かに頷いた。あの時、まともに剣を扱える状態にあったのは私達だけで、二人ではとてもじゃないがどう足掻いてもあの包囲は抜け出せなかった。
腕前どうこうじゃない。断続的ならまだなんとかなる。あの強烈な殺気の群の中で、一度に四方八方から剣を突き出されても、払う事が出来る切っ先はせいぜい四、五本がやっとだ。深手を負えば、あの状況からの先は目に見えている。
「・・・死ぬ、と思って、一番に頭に浮かんだのがリルの顔だったんだ。アイツの笑った顔。・・・睫毛が長いんだ。瞬きが魅力的で、色っぽい。・・・すげぇ抱きたくて、悔しかった。もう二度と抱けないのかと思うと情けないことに泣きそうだった。・・・笑うか?」
真面目な顔で静かに、少し顔を横に振った私を見て、ドゥエインはやんわりと微笑んで続けた。
「だから。プロポーズしたんだ。死ぬ為じゃない。生きる為だ。オレにはアイツしかいない、それが分かったから。この先もずっとアイツを抱きしめる為にオレは生きてここに帰る。それを絶対だと感じたからだ。・・・アイツとそういう関係になってからオレが怪我して戻ったの初めてだったからな。今回の負け戦にちょっと過敏になってるみたいで、・・・・タイミングが悪かったらしい」
後ろ頭を軽く掻いて、叱られた子供の様に苦笑いを浮かべて、そう呟いたドゥエインに、その原因は自分にあると、後ろめたい気持ちが顔を出し、私も少し苦い笑いを零して言った。
「・・・今の言葉、そのまま彼女に言ってあげなよ。今度は受け止めてくれる。きっと」
「ああ、もう言った。すぐ後に」
「え」
「こういうのは勢いだからな。タイミングずらすとこじれっちまう。リルは特に白黒ハッキリつけたがる女だから、そこでうやむやにしたら後が怖い。ああ、もちろん、その後は丸く収まって、オレは存分に彼女を抱きしめることが出来たよ。安心したか?」
ケロリとそう続けるドゥエインの目の端が得意げに笑っている。初めからその結末が用意されていた事に少しカチンと来て、睨むようにドゥエインを見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・意地が悪いな。からかったのか?」
「お礼だよ。そう気付かせてくれたお前に、ありがとうと言いたかった」
「え?・・・・」
「あの事が無かったら、今のオレ達は無い。お前が、オレ達が夫婦になるきっかけを作ったんだ。・・・・人の縁てな不思議なもんだが、この先二度とお前とこんな風に語り合う事が無かったとしても、オレはお前という女を忘れない。子が出来たら昔語りに、こんなことがあったと聞かせるさ。なぁ、そう考えると面白いだろ」

ドゥエインがそう言って、私の中の後ろめたさを完全に取り払うかのように、本当に愉快そうに笑った。
だから私も、ドゥエインがくれた言葉を素直に受け止めて、少し困った顔で笑いを返した。
「・・・勘弁して。背中がむず痒くなる」
気恥ずかしさにそう言った私に、ドゥエインが更にさらりと続けた。
「お前は誰の顔が浮かんだんだ?あの時」

「!・・・・・」

いきなりこちらに振られた話題に顔を作れず、私は笑っていた頬を途端に強張らせてしまった。誰っ・て・・・

ドゥエインはそのまま硬直してしまった私の顔を覗き込み、先程とは打って変わって、至極真摯な表情で、静かに、そして優しく諭すように、続けた。
「そういう奴がいるんなら、言っとけよ。死に際の後悔ほどキリの悪いもんは無ぇぞ」
自分もそうだったのだからお前も、と、私の想いの先行きを促すように、私の目を見つめた。



同じ台詞で私の背を押したリィバーの、その真剣だった瞳の色とドゥエインのそれが重なる。
どいつもこいつも、本当に、・・・・気の良い奴ばっかりで、まいる。

あの晩から引き摺り、だがもう表には出すまいと胸の奥にしまい込み堪えている感情の渦を、気遣われた事に思わず引き出されそうになる。
泣くな。冗談にならない。今、ここでは、笑顔のままでいたい。



「うん。そうする」

私は、フリックさんへの想いに、その切なさに歪みそうになる顔を必死で抑えて、逆に晴れ晴れしく、爽快に笑った。

ドゥエインはもうそれ以上何も言わず、手を伸ばして私の頭をくしゃりと撫でた。
長身の彼の大きな手が思うより心地良く、生きてここにいる事に、彼の手の平の暖かさに、このひと時を忘れまい、と、胸の奥に刻んだ。
















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