That Day
傷がひきつる
どうしてこんな事に
「・・・・・っあ・・!・・ん・・っ!・・・」
私の腕を 腹を撫でるケイコクの腕が熱い
むき出しの肌に息がかかるたびに力が抜けていく
ケイコクの柔らかい髪が私の顎をくすぐる 唇は乳房を優しく弄ぶ
イヤじゃない イヤじゃないのが 辛い
は先ほどの恐怖から一転して、ほたるの与える快感に支配されつつある自分に激しく動揺していた。ほたるの指も、舌も、の全てを心得ているようで、触るところ全てから火がつき、熱く燃え盛ってたまらなかった。
ほたるはの体を貪りながらも、傷に体重がかからないように上手く押さえつけていた。
ほたるがの抵抗を許さず掴みあげた両の手から、力が抜けていくのが分かる。
「・・・はあ・・もう、」
ほたるが苦しそうに呻いた。胸元から顔を上げを見る。
「・・のバカ・・我慢しようって思ってたのに、よりによって戦いの後なんて一番ブレーキ効かないのに・・・目の前で脱ぐから悪い・・・」
ふ、とが目を開けてほたるを見た。 ほたるは赤い顔をしている。初めて見た。
「・・・止まんないかも・・キスだけのつもりだったのに・・・・ねえ・・」
先ほどまでとは違い、ゆっくりと唇を近づける。触れるか触れないかの位置まで来た時、ほたるがポツリと呟いた。
「・・・傷・・痛む?・・」
視線が合わさる。
ほたるの視線が痛いほどに熱い。
の視線はうつろに潤んで、そんなほたるの視線を優しく包み込んだ。
ゆっくりと、唇が重なり、舌が交わった。
ほたるはの自由を奪う為に押さえていた両の手を離し、その手をの股に這わせた。
の体が少し、跳ねた。
「・・イヤ・・っだ・・ケイコ・・ク・!・・そこは・・・!・・」
の涙が頬を伝った。
ほたるの動きが止まる。
「・・・なに、コレ・・どうしたの・・?」
優しく愛撫をするつもりだった。
指先を静かに這わせ、少しじらし、の了解を得るまで奥には挿れないつもりで。
そっと触ったら、指がボコボコした感触に辿り着いた。
ここに、この感触はあり得ない。
少し触っただけでそれと分かる。
引きつった、あちこち盛り上がったひどい傷跡 。
「・・・?」
「・・・・なんだ」
「・・・・・」
ほたるは少し、待った。
が、顔を横に反らしていつまでも自分の方を見ないに、静かに体を離し、隣に横になった。
の方を向き、髪を優しく撫でる。
時々、肩に軽く触れるくらいのキスをしたり、頬や顎を優しく弄んだ。
だが、言葉は交わさず、黙ったままの言葉を待った。
「・・・・・・」
ふ、と、がほたるの方を向いた。
涙はもう止まっていた。
ただ静かに、感情を殺しているのが分かった。
ほたるはの視線を静かに受け止めた。
ほたるは今まで沢山の女性と床を共にしてきた。
だが、こんなのは初めてだった。どうすればいいか分からない。
自分はそんな時おおよそ考え込むという事をしない男で、言葉を抑える事もあまりない。いつもしたい様にして、思い付くままに行動に移し、人と接してきた。
それが間違っていたとは毛ほども思っていないし、だから今も、「そうするべき」であろう言葉も行動も、考えたところで何も浮かばない。でも。
に嫌われたくない。
強く意識する。
初めて芽生える、他人に対しての不思議な感情。
ほたるはそっとの頭の下に腕を回し、肩を抱いて、の体を抱え込んだ。
優しく包み込むように抱きしめるつもりが、その不思議な感情のせいで力が籠もる。
再び全身でに触れて、激しく突き挿れたいと思っていた気持ちが少しぶり返す。
支配すれば、手に入る訳じゃない。
だが、そういった感情の波はいつでも紙一重だ。
求めているからこそ。
「・・・私は、遊郭に売られた娘だったんだ」
されるがままに抱え込まれていたの口から、ぽつりと言の葉が零れる。
ほたるは抱きしめていた腕を少し緩め、の方を見た。は下を向いている。表情が読めない。
「・・客に出される前に乱暴された。その時の傷だ。・・とおにもなってなかったから、・・」
ほたるの眉間に皺が寄る。表情の動きは些細だが、感情の渦は激しい殺気となって溢れ出ていた。
「・・あの人がそんな事したの?」
「あの人・・?谷の首領の事か?いいや、あの人と私は親子ではない。あの人は私を救ってくれたんだ・・・」
ほたるの体から溢れる殺気が少し揺らいだのに気付き、は顔を上げほたるを見た。
ふっと、微笑った。
その表情に、ほたるの眉間の皺が消え、殺気も少し収まり始めた。
の心の中ではもう整理がついている過去なのだ。
ほたるが必要以上に蒸し返す事ではない、が、
知りたい。そして、受け止めたい。の全てを、自分の中に。
ただ、求めている。
ただ、手に入れたい。
初めて、女に対し、そう強く想った。
想いの形を指す言葉に、辿り着けずにいた。
「・・・私はあの谷の生まれじゃない。そこから少し東に位置する、麓の小さな村で、生活の糧に売られたんだ。ななつの時だ。・・・・遊郭の用心棒がそういう・・のが、好きで・・・」
「・・・・・・」
もういい、とは言わない。聞きたい。知りたい。目の前の、女の全てを。
「・・首領は、子供を病気で亡くしたばかりで・・街に用事があってたまたま通りかかった時、格子越しに私を見かけて・・。無くなった娘に・・私がそっくりだったんだそうだ・・という名前は彼女の名前だ・・私が貰い受けた・・」
「・・・元の名前は?」
「・・・もう忘れた」
「・・・・」
「・・・・首領はとても厳しかったが、とても優しかった・・・母上も・・首領の奥方も、・・病気で亡くなったが、とても優しく、暖かく接してくれた・・谷のみんなも・・・」
私はなぜ淡々とこんな事を話しているのだろう。この男に。
私から、私の全てを奪い取ったこの男に。
だが、の心の中はひどく静かだった。
怒りも、とまどいも、全て消え失せて、ただ、目の前の男に従順だった。
ほたるはの話を黙って聞いてから、が言葉を紡ぐのを止め、静かになったのを見て、徐に自分の中指を口に入れ、唾液で濡らし、再度ゆっくりとのそこに這わせた。
ゆっくりと、奥に差し込む。
「なにを・・あっ!・・ッ・・・」
ゆっくりと、ゆっくりと進入し、中を優しく撫でる。
なにごとかを探るように静かにうごめきながら、指を最奥まで届かせるように深く差し込んだ。
「・・・・ッ・・・」
はそこに思わず快楽を感じて、きつく目を閉じた。
すると、その後特に激しく動く事もなく、ほたるの指はするりと抜かれた。
ほたるのいきなりの行為にはとまどい、ほたるを見ると、ほたるはとても自然な動きで、そうする事が当たり前のような顔をして、今しがた自分の中に入れていた指を再度口に含んでいた。
は慌ててそんなほたるをなじろうとしたが、そうされた事が恥ずかしくて顔が火照って、焦って上手く言葉が出てこなかった。
ほたるはそんなを見て、事も無げに言った。
「・・側はひどいけど、中はそんなでもないよ。ちゃんと包んでくれた・・ちゃんと女だよ」
「・・・・・・」
を真っ直ぐに見てそう言ってから、ゆっくりと上体を起こし、にも起きるよう促した。
「・・傷、痛くない?」
「・・・ああ」
少しチクチクするが、痛いと言葉にするほどでも無かった。
は起きあがりつつ、ごく自然な動きで着物の乱れを直した。そんなをほたるはじっと見て、言った。
「・・・ちょっとだけ」
「え?・・ん」
なに?と問う間に唇を奪われる。
激しくはなく、むしろその名残を惜しむかのようなほたるの口付けに、はそうと思わず応えていた。
優しく自分を味わうほたるの舌を、受け止め、そして、ゆっくりと放す。
目を開けてほたるを見ると、なぜか少し戸惑ったような表情。
ほたるはすっとの後ろに回り、を軽く持ち上げ、自分の膝に乗せて後ろから抱え込んだ。はされるがままになっている。
ほたるはを後ろから優しく抱きしめた。抱けばしっくりと腕の中に収まるの体に頬をすり寄せ、の肩や耳に何度もついばむようなキスをする。
ほたるが動くたびに、ふわふわと綿毛のような髪がの顔や首に当たって、くすぐったくてつい笑ってしまう。
「・・っなんだ・・どうした・・」
先ほどより自然な笑みだ。ほたるはそれを見て、少し強ばった目をして、を抱きしめる手に、きゅっ・・と、少しだけ力を込めた。
やがて、ふう、とひとつ息をつき、の肩に顔を埋めた。
「がすごく大事」
「・・・・え・・」
「山で追われてて、オレの目の前に現れたを見た時、すごく綺麗な女だと思った。次に、すごく抱きたいと思った。抱いて、犯して、めちゃくちゃにしたいと思った。暁の谷の女だって話してた時、キスした時、すごく、手に入れたいって思った。・・・今は、なんか苦しい」
ほたるはの肩に顔を埋めたまま、黙々と話し続ける。
は今し方言われた事に対し、なんとも返答のしようがなく、ただ黙って聞いていた。
「・・・オレ、こんな風に女を求めたの、初めて。自分でもよく分かんないけど、とにかく、すごく、の事考えてて、と早く繋がりたくて、いっぱい繋がって、そうして、全部、オレのものにしたい。オレだけのものにしたい。ずっと一緒に居て、そうしてこの先が年取って死んでも、魂だけんなっても、オレから離れられなくしたい」
「・・・・・」
「・・・今それしか考えてない。すごい苦しい」
「・・・・・・・」
最後の方は、至極らしくなく、語尾が頼りなげに、か細く響いた。
暗に、ほたるの心の戸惑いを、気持ちの重さを、物語っているようでもあった。
はほたるの事をよく知っている訳ではない。
きちんと相対して会話をしたのもつい先日の事だ。
ほたるがどういう人間か、・・・・・どういう物事の捉え方をし、どういう風に対処するのか。
今自分に向けられている言葉の響きは、彼にとってどこまで重いものなのか。
彼に対しては、そういう「事」を、こうやって「探るように」考えるだけ、その時間が無駄なのだ。
きっと。
は、心の奥で何かが少しずつ解けていくのを感じた。
ほたるは、先ほどから抱きしめているの体が、ゆっくりと自分に体重を預けていくのが分かった。
そして、に触れている全ての場所がなんだか切なくなって、抱きしめていた手に再度力を込めた。
しばらく2人とも黙ってそうしていたが、やがてほたるがゆっくりと顔を上げ、それに合わせてもほたるの方に顔を向けた。
視線が合わさる。
「・・・早く傷治そうよ。にこ先生も菜子ちゃんも、すごくいい医者だよ。分かってるでしょそれは」
「・・・・・・・・」
「オレが護るから、大丈夫だよ」
「・・・・」
「あ、そうだ。ん・と・・」
の返事を待たずに、ほたるが抱きしめていた手を解いて着物の袂を探り始めた。
「嫌いだって言ったのに患者さんからもらって食べきれないからって菜子ちゃんに押し付けられて・・にあげようと思って・・ここに・・・・・・・・」
が、すぐに表情が歪む。心底嫌そうなしかめっ面で、袂からなにやら色とりどりの不気味な固まりを取り出した。はそれを渡されて首を傾げる。
「・・・こんぺいとう・・・の固まったやつ・・なんかサイアク・・」
「・・・・・・こんぺいとう・・これが・・」
の口から思わずつぶやきが漏れる。先ほどの戦いの熱で溶けて、時間の経過と共に再度固まったのだろう。
菜子に押しつけられた時、すぐだからいいや、と、包みにも入れず、無精にもそのまま袂に一握り放り込んだ。そのせいで、色とりどりの可愛らしい粒々のお菓子は、今や原型を想像する事すら難しい代物となって、ほたるの着物の袂の中でごろごろと不格好に固まっていた。
「・・・・中で固まってる・・・・気付かなかった・・・・・・・・気持ち悪い」
ほたるはそんな固まりをコロコロと数個取り出すと、袂を覗き込み、更に嫌そうに呟いた。
そして着物の上衣を脱ぎ始める。
「・・んしょ・・」
上半身裸になり、着物を放り、やっと落ち着いた顔をする。
を見ると、渡されたこんぺいとうの固まりを持ったまま自分をじっと見つめていた。
ほたるの手に、体に、巻かれた包帯の白さが、月明かりに浮かび上がり、の目に眩しく刺さる。
自分をかばって・・
「あ」
は持っていた固まりの端っこをポロリと崩し、かけらを口に入れた。
ほたるが思わず驚きの声を上げる。彼にとってはそれほどに気持ちの悪い固まりなのだ。
は口の中で甘く広がっていくこんぺいとうを、目を閉じて味わった。
ほたるは固唾を飲んでそれを見守った。
ハタから見ればとてもおかしな光景だが、今の2人は心から真剣だった。
やがて、口の中の固まりが溶けて無くなると、自分をじっと見ていたほたるに向かって、一言、言った。
「・・・・・・・・・・・・ありがとう・・」
は色々な意味を込めて言った。
助けてくれてありがとう
かばってくれてありがとう
そんなに、求めてくれて、ありがとう・・・・
なんだかフクザツ過ぎてこれ以上言葉が出てこない。
今のにはそれが、言葉に出来る精一杯の気持ちの証だった。
じっと自分を見るの視線を、ちゃんと受け止めたその後、ほたるがから一度視線をそらして、それから一泊置いて、再度を見て、言った。
「・・・じゃあ、オレも、・・・ゴメン」
の谷を焼いたこと
哀しませたこと
視線はひたすらに真っ直ぐに、揺ぎ無い。
そうして、2人は暫く見つめ合った。何を言うともなく、ただ、お互いの視線を受け止めていた。
ほたるが徐に立ち上がり、その後ゆっくりとを抱え上げた。
そして腕の中で大人しく自分を見つめるの顔に、首元に、愛しげに頬を摺り寄せた。
そして、
「オレ、傷治るまで絶対意地でも我慢するから、そのかわり治ったらあちこち一杯舐めさせてね」
と、猫が喉を鳴らすように、心地良さ気に言った。
「舐め・・・」
その言葉に思わず呆れつつ、はどうしても一つ引っかかって、ほたるに言った。
「・・・・・・そこに私の意志は無いのか?」
「あるよ、オレの事好きでしょ?」
「な?!」
言われた言葉に驚くを後目に、ほたるはそれが当然の事実という様な顔で、けろりと続けた。
「そんな目、してるよ。女の目で、オレを見てる。にそんな風に見られると、ゾクゾクするからやめて。我慢してんのに」
「・・・・・・・!!!!」
私がこの男の事が好き?!
女の目で、見ている・・?
ゾクゾク、する。
そうだ。あの時も、・・・・私は
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フクザツだ。
今し方言われた事と、自分の現状に何事かと悩み、言いよどんでいるの次の言葉を待たずに、ほたるはを大事そうに抱えて、焦げていない布団のある奥の部屋へとゆっくり歩き始めた。
BACK / NEXT
KYO夢トップへ