That Day
「・・・・アキラ。どうしてここに?」
「・・・・それはこちらのセリフですよ」
少し動揺を含んだ響きでアキラが答える。ほたるは嬉しそうに微笑んで、すぐにアキラの気配が緊張している事に気付く。
「・・どしたの?アキラ、何かあった?」
「・・・だから、それはこちらのセリフだと言うんですよ!ほたる、あなたに聞きたい事があります」
「待って、ここじゃ診察の邪魔になるよ。入って。・・・菜子ちゃん、往診の時間になったら呼んでね。コレは心配ないから。昔からの、えっと・・・切りたいんだけど切れない縁っていうか」
アキラを指さして暢気に言うほたるに、アキラは拳をわなわなと震わせて怒鳴った。
「だからそれも私のセリフですよ!・・・・まったく。・・・元気そうですね」
「うん。アキラこそ。・・・元気そう」
「その手はどうしたんです?その怪我でここに?」
アキラはほたるの左手に巻かれている包帯に気付き、それを問うた。ほたるがアキラに来い来いと促しながら答える。
「え?ううん違うよ。ここに来たのは・・」
ほたると会話を交わしながら、アキラが草履を脱いで中へ入ると、前方を行くほたるに菜子が走り寄り、ぐいっと耳をつまんで引き寄せた。
「いたっ。菜子ちゃん痛いよ」
「まだ訪ねて来る人がいるの?刀持ってたら色々想像しちゃってこっちも困るんだけど!」
「もう来ないと思うけど。誰か来てもオレが居るから大丈夫だよ」
「嘘ばっかり!さっきだってさんにくっついてて、私が声掛けるまで全然気付いてなかったじゃない!」
飄々と言い切るほたるに、菜子が更に耳を引っ張り怒鳴った。ほたるは少し眉を寄せ、言葉を続けた。しかし声の響きはやはり飄々としている。
「いたた・・だって、殺気感じなかったもん。その気なら、結構遠くまで分かるよそういうの。心配しなくていいよ。アキラも居るし」
話の対象をいきなり自分に振られて、菜子に耳をひどく引っ張られるほたるをほくそ笑んで視ていたアキラは、ゆっくりと菜子に向かって頭を下げた。菜子がそれを見て、ほたるの耳から手を離し、アキラに対し向き直り、挨拶をし直した。
「・・・・・初めまして。さっきは失礼しました」
「いえ。この男が多大なご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません。ですが言う事に嘘はありませんよ。本当に、そういうつもりの輩が近付いたら、すぐに分かりますから。安心して仕事に戻って下さい」
ほたるが飄々と言うよりも、落ち着いた物腰のアキラから発せられる言葉に、菜子は少しは納得した様子で、やっとその場から離れる気になったらしく、アキラに一礼すると、一言、言った。
「・・・お構い出来ませんけど、ごゆっくり」
「いえ。お邪魔します」
穏やかに微笑んで返したアキラを見て、菜子は待合室の方へと駆け戻って行った。
いたた、と、耳をさするほたるに付いて、アキラは廊下の奥へと進んだ。
一歩ずつ進む度に、この診療所の惨状が晒されていき、アキラはふう、と、ため息をついた。あの、菜子という看護婦はどんな目に遭ったのか知らないが、女性の割にずいぶんと肝が座っているらしい。翌日にあんなにしっかりと仕事をこなす事が出来るのだから。
「・・・あの看護婦の人は、簡潔な女性ですね。好感が持てますよ」
「うん。菜子ちゃん可愛いよ。気が強いからまたいい。ご飯も美味しいし」
「・・あなたは、行くとこ行くとこで迷惑を掛けなければ気が済まないようですね。もっと他に戦い方は無かったんですか?」
進めば進むほどひどくなっていく家の内部の惨状に、少しキツい口調で問うと、ほたるはまた飄々と言った。
「アキラは凍らせて粉々にするじゃん。・・・あ、その方が片付けやすいのかな」
ほたるの考えのない物言いに、また軽くため息を付くと、アキラは、何が襲って来てこうなったのか聞こうとした。が、その前に目的の部屋へ着いたらしく、ほたるが立ち止まって障子戸へ手を掛けた。
「、入るよ」
「?!」
の名を聞いて驚いた顔をするアキラを、ほたるは不思議そうに見つめて、障子戸を開けた。
「はあ・・・」
はアキラが行ってしまってから、風呂には入らず、ぼんやりと座り込んでいた。
さっきのアキラ・・・なんかおかしかった・・
なんだろう・・・なんでそう感じるんだろう・・・
先程のアキラの態度を、考えれば考えるほど、全く不審な所が無い。
それならそれで、何も考える事など無い筈なのだが、何故か、何かが、ひっかかる。
がふと視線を泳がせた先に、アキラの荷があった。
アキラはさっき、傷薬と腹痛の薬を買うって言ってたよね・・・・。
何気なく、広口の緑の瓶に入った傷薬を手に取り、その蓋を開けた。・・・・そんなに、少ない?コレ。
なみなみと、とまではいかないが、には、暫く無くなる心配は不要な量に感じられた。
・・・・・行ってみようか。分からなくなったら、アキラが帰って来る前に、すぐ戻れば・・・
そう、考えたら、気持ちが止まらなくなった。は急いで立ち上がると、まだそう遠くへは行っていない筈のアキラの足取りを追う事にした。
部屋を出てすぐに宿屋の主人と鉢合わせて、は薬問屋の場所を聞く事にした。すると、怪訝そうな顔で、こう言った。
「・・・お連れさんは、先程診療所の場所を訪ねて来られましたが、・・・・何処か具合がお悪いんですか?」
「いっ、いえ。・・・診療所?」
「ええ。とりあえずこの近くの、出て角を曲がって暫く歩いたところに、『二谷診療所』ってあるんですが、あ、ちょっと・・」
は店主の話を最後まで聞かず、その場から駆け出した。
診療所・・・・?アキラ、もしかしてどっか悪いの・・・?!あんな、嘘ついて、私に・・・・
はアキラの体調を思い、不安で泣きそうになりながら宿から飛び出し、すごい勢いで、二谷の診療所への角を曲がった。
アキラがほたるに促されて室内に入ると、布団から上半身を起こしてこちらを見る女性の姿があった。浴衣を着ている。怪我をしたのは、・・・・・
ほたるは、何事か問うような瞳で自分を見るに歩み寄り、隣にストンと座った。
「アキラ、座りなよ。を知ってるの?」
アキラは、大きく長く、息を吐くと、その場に座り、ほたるを視て、不敵な微笑をその口元に浮かべて、静かに言った。
「・・・まるでお膳立てされたような状況ですね。・・・・面白い。もう完全にあなたも私も、渦の中ですよ」
「・・・何?どういう意味?」
彼特有の表情の無い顔で、ほたるはアキラに問い返した。
アキラはに顔を向け、表情を引き締めて、話しかけた。
「・・・・初めまして、さん。私はアキラといいます。彼の古い知り合いです。・・・・怪我をしてらっしゃるんですね。もう大丈夫なんですか?」
は、自分に対し問い掛けられて、今一度、ほたるの顔を見たが、その表情が変わらないので、改めてアキラに向き直り、静かに答えた。
「・・・初めまして、アキラ、さん・・。怪我は、もう大丈夫です。本当はもう起き上がっても平気なんですが、この男が・・・」
「寝てなきゃダメ」
「・・・・と、いう感じで。・・」
「そうですか。このバカの相手をまともにしていてはキリがありませんよ。適当な所で軽くあしらっておかないと。・・・ですが、怪我はきちんと治さなければ。何事にも無理は禁物です」
「バカじゃないもん。死にかけたんだから、まだちゃんと寝てないと」
「・・・・・・・・・」
アキラに軽く落とされた事に、ぶぅ、と頬を膨らませ、ほたるは反論した。アキラは、ほたるの言った『死にかけた』という言葉で、この状況を理解した。恐らく、壬生の追っ手から逃れる彼女をほたるが助けたのだ。
自分が話す事も、二人に聞かなければならない事も多い・・。
とにかく、の事を彼女に告げましょうか。全ては、そこからですね。
アキラは極めて段取り良く、が受け答えをし易いように、と、考えつつ、穏やかに話し始めた。
「・・・とにかく、あなたが無事で良かった。・・・私は今、ここからそう離れていないところに宿を取っているんですが、そこに、ある女性を待たせています。・・・、と、いいます」
「・・・・え?!」
その名を聞いて、が目を見張った。アキラは軽く頷いてから、続けた。
「私はある事から彼女と道行きを同行する事になったのですが、彼女はあなたの事をとても心配していました。・・・ここに彼女を連れて来なかった理由は、・・・ほたるにあります。あなたは、・・・・・・?」
話を核心に持って行こうとして、が俯いて動かなくなったので、アキラは一旦言葉を止めた。
の口から、小さな呟きが零れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・は、無事なんですね?」
「はい。今は。・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?どしたの?・・・・泣いてんの?」
下を向いたまま、片手で目元を拭ったに、ほたるが驚いた顔で覗き込む。が震える声で静かに言った。
「・・・良かった・・無事で・・・・・彼女はそそっかしいから、1人でやっていけてるか、本当に心配で・・・」
「分かります・・・・!!」
「なに力一杯頷いてんのアキラ」
の呟きに、アキラは思わず握り拳で同調してしまい、話の見えないほたるが怪訝そうに眉を寄せた。
アキラのその様子に、が目元を拭い顔を上げ、アキラを見た。
「お世話になったんですね、・・・。 すみません。悪気はないんですが、・・・とても、いい子なんです・・本当に・・・」
の言葉に、出会った時のが、自分にの事を話した時の様子が脳裏に浮かんだ。
二人の、お互いの存在が、お互いをとても強く支え合っていたのだという事に改めて思い至り、の、を想うその様子に、穏やかに微笑んだ。
だが今は、感傷に浸るよりまず先に、問わねばならない事柄がある。アキラは静かに続けた。
「・・・・も、きっととても喜びますよ。ところで、ほたるの事なんですが、・・・二人は、その、」
「・・・から色々聞いたんですね。私の谷の事も」
「・・・ええ」
神妙に頷くアキラに対し、顔を上げ、姿勢を正してアキラを見つめて、はゆっくりと、自分の気持ちを確かめるように話し始めた。
「・・・・・わだかまりは完全に消えた訳ではありませんが、・・・彼は、私を助けてくれています。谷のみんなの仇討ちの為に、日々鍛錬を繰り返して来ましたが、今は、もう・・・・」
「仲直りしたの」
「「・・・・・・・・・・」」
場の厳かな雰囲気を一層するような、ほたるのけろりとした物言いに、アキラもも思わずほたるを睨んだ。だがほたるはけろりとしている。
ほたるの相手をしている時間が惜しいとばかりに、アキラは渋い顔でほたるに向き直り、再度言葉を続けた。今度はほたるに確認する番だ。
「・・・では、あとはの事です。ほたる、あなたは、5年程前に、」
言いかけて、玄関の方から聞こえる騒音に気付く。
誰か、何事か喚いている様に聞こえるが、・・・・この声は!
アキラが慌てて立ち上がり、障子戸を開けて玄関に向かおうとすると、すごい勢いでドタバタとこの部屋に近付いて来るの足音。・・・〜〜〜ああ、もう遅い。
アキラは額を抱えて盛大にため息を吐くと、今開け放った障子戸にもたれるように立って、が来るのを待った。
宿を出てから、まだそんなには経っていない。後を追って来たという事は、・・やはり、気取られてしまったんですね。
悔しいような、・・・嬉しいような。この状況では、複雑極まりない心境ですよ・・・。
「どうしたのアキラ?・・・お客さん?むぐっ」
「ちょっと引っ込んでて下さい」
ほたるが廊下に顔を出そうとするのをアキラは乱暴に制した。ほたるの相貌をは知っている。見た瞬間にどのような状態に陥るか、アキラはそれを危惧した。しかし、時既に遅く、・・・足音が廊下の先で止まった。アキラは静かに顔を上げて、金縛りに遭ったように立ち止まっているの方に顔を向けた。
「・・・アキラ、知ってたの?」
「・・・何をです?」
「・・・知ってて、その男がここにいるの知ってて、私を遠ざけたの?!」
「・・・その男、とは?」
・・・の状態が村にいた時のように変化する様子は見られないですね。・・・とりあえず、良かった。
後は、どうこの場を収めるか・・・。
と、しらじらと言葉を交わしつつ、アキラはの様子を調べていた。異常な事は見られない。
ただ、・・・長くも、短くもあった自分との旅路の間、自分に見せた事が無いほどの、燃え立つような怒りを、が今、全身に表している。
そしてそれを真正面から受け止めて佇む自分 それが、心に少しの動揺を呼び起こしている事が、アキラはなんだか切なくもあった。
「はぐらかさないで!!今、看護婦さんから、アキラが『ほたる』を訪ねてここに来たって、聞いたんだから!!・・・・そこ、どいてっ!!」
激しい口調で、言うが早いか、はすごい勢いで突っ込んで来た。懐から取り出した短刀を構え、アキラの脇をすり抜けようとする。だが一瞬早く、アキラの手がの肩口を掴んで動きを制した。
「!落ち着いて!私は今ここに、」
「何を?!何を落ち着くっていうの?!離してよっ!!」
しっかりと捕まえていたつもりが、そのあまりの勢いの良さに、の肩を抑えていたアキラの手が少しずれた。は揉み合う一瞬でそれを感じ取り、バッと身を捩ってアキラの手を外し、奥へ突っ込んだ。短刀を構え直し、微動だにせず座っている金の髪に向かって、短刀を振り下ろそうとしたその時、の眼前を黒髪の女性が遮る。
「!私だ!」
「・・・ッ・?!ッ・・え?!・・・」
「、・・・・無事で良かった・・・」
は短刀を振りかざしたままで、その場に縫いつけられてしまった。 ・・・・?!
「・・・・・・?なん・で・・?どうし・・・・どうしてその男と?!」
「、、聞いてくれ、私は、」
「その男はの谷を滅茶苦茶にしたんでしょ?!許さないって、絶対仇を取るって、あんなに言ってたじゃない!!どうして?!ねぇ!!」
は逆上してしまっていて、あれほど無事を祈った彼女が今、生きて、目の前に居る事、しかしその状態は、無事とは言えず、浴衣で布団に入っていたのだという事に全く気持ちが行かず、ほたるの前に膝をついて立ち塞がるの肩を掴んで、感情のままに揺すった。の顔が一瞬歪む。と、ほたるがの肩を掴んでいるの手を上から掴んで、揺するのを止めた。
「傷に障るから止めて。早く治ってくれないと困るんだから」
無表情に言い放ったほたるの言葉に、そこで初めての現状が目に入る。
「傷?・・・、怪我・・・?怪我してるの?!」
先程からの逆上に引き続き、完全に気が動転してしまっているに対し、必死で落ち着かせようとはの頬を優しく両手で包み込み、静かに言い募った。
「大した事はない。もう治ってるんだ。、聞いてくれ、私は、ほたるの・・・ケイコクの事を憎んだ。血を吐くほどに、憎くて憎くてたまらなかった。だけど、・・・だけど、今は、・・私は・・・」
「・・・・・・・・」
両頬を支えられ、の視線の正面から、必死で言葉を綴るに対し、の気持ちは、だんだんと落ち着きを取り戻し始めた。
が自分に何を言いたいのか、の憂えた瞳の奥に在る、芽生え始めた熱い何かを、同じ女として、感じ取ったのだ。が言い淀むその言葉の先に、何が続くのか、は、何となく分かった気がした。
しかし、の怒りは収まらない。瞼の奥に蘇る、村の惨状・・・・
「・・・・、良かった、生きてて、良かった・・・・」
「・・・あなたも・・・」
の言葉の響きに、落ち着きが戻ったのを聞き取って、がホッとした表情で言った。が、は、自分の頬を抑えるの手をゆっくりと外し、一歩後ろに下がり、俯いて、呟くように話し始めた。
「・・・私、アキラに付いて来てもらって、この春、久しぶりに、村に戻ったの・・・」
「・・・・!・・・」
が息を呑んだ。が今、ほたるを目の前にして、ここまでに逆上した事に合点がいった。自分の谷の惨状も、同時に脳裏に浮かんだ。
「・・酷かった・・・本当に、滅茶苦茶になってた・・目も当てられないほどって、ああいうのの事いうんだよね・・・ショックだった・・本当に、哀しくて、悔しかった・・・」
「・・・・・・・・」
「の谷もあんな風だったんでしょ・・だから、この男の事をあんなに憎んでた。今なら分かる、あの時の、の気持ち・・・私は、私は、絶対にこの男を許さない・・・・」
「・・」
の声が次第に低く、暗くなっていくのが辛くて、がそっとに手を伸ばした。が、は差し出されたの手を受け取らなかった。顔を上げ、ギッとほたるを睨みつける。
「絶対に!!絶対許さない!許せないッ!!絶対!!絶対いぃ ッ!!!」
声を荒げて、拳を血が滲むかと言う程に強く握りしめ、慟哭したに、は言葉を失って佇むしかなかった。
ふ、と、の頭の上から、ほたるが抑揚の無い響きで言った。
「じゃあ、殺せば?」
その声のあまりの抑揚の無さと、言った事柄に、その場に居た全員がほたるを凝視した。
「なっ・・」
「・・・・・・ッ!!」
はほたるの言い様に、心を決め、差し違う覚悟で短刀の刃を正面に構え直し、じわり、と、一歩踏み出した。
「、ゴメン。ちょっと、どいてて」
「あっ・・ほたる!」
なおもほたるの正面に立ち塞がろうと両手を広げたの腰を、ほたるはスッと支え、軽く右側に押した。自分は同時に左に動き、正面に隙を作る。
がそれを逃すかとばかりに、勢いよくもう一歩踏み込んだ。
ザッ・・・・!
の頭から煮えたぎっていた血の炎が消え、真っ白になった。
畳に落ちる一筋の血。やがて二筋、三筋、と、赤い糸が勢いを増していく。
「・・・・アキラ・・・!!」
みなが目を見張ったその先に、の突き出した短刀の刃先を、その左手に握りしめたアキラの姿。
「もう止めなさい、」
「アキ・・」
「座りなさい」
「・・・・・・・・・」
血をポタポタと畳に吸わせ、静かに言うアキラに、は人形の様な動きでその場に座り込んだ。目は真っ直ぐにアキラの左手を凝視している。
のその様子を視て、アキラは左手に握っていた短刀から、スッと手を離し、右手で懐から懐紙を取り出し、左手に握り込んだ。そしてくるりとほたるに向き直り、静かに言葉を続けた。
「ほたる、確認したい事があります。五曜星の任務で、5年程前、・・・さんの谷を襲撃してから、・・4年後に、『陽の刻の村』という村を襲撃に行きましたか?」
「え・・・・・」
「どうなんです?」
正面から静かに問いただすアキラに対し、ほたるが首を傾げて考え込む。そのまま暫く記憶を探っていたが、なかなか思い出せない。・・・・・陽の刻の村・・・?ええと・・・・
「・・・・・ん、と・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうなんです?!」
なかなか思い出さないほたるに痺れを切らし、アキラが再度、きつく問い掛けた。ほたるはまだ首を傾げたままだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、思い出した」
ぽん、と、弾けたように顔を上げ、アキラを見た。
「何を?」
ほたるの口から何が語られるのか、その場に居る全員が固唾を飲んで彼を見た。
ほたるは刀を受けるつもりで立て膝のままだったので、その場に胡座をかいて座り直し、飄々と言った。
「オレ、行ってないよそれ。確か」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
とが唖然とした顔でその場に凍りついた。
アキラだけ、誰にも気付かれぬよう、その胸中で盛大に安堵の息をついた。
が、短刀をその場に取り落とし、震える手でほたるに指さした。
「じゃ、じゃあ、私の村を襲った炎の使い手は、」
あなたじゃないの・・?と、続ける前に、再度ほたるが小首を傾げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ん、と、・・・・・昔、そんな奴殺した気がする、確か」
「え・・・・・・・・・?」
ほたるの口から出てきた言葉に、その場に居た全員が目を見張った。その視線を軽く受け止めて、ほたるはその時の事を思い出しつつ、少しずつポツポツと語った。
「・・・・・大した実力も無いのに、オレの肩書きが欲しくて、オレに不意打ちかけて殺そうとしたから、殺したんだよ確か。・・・・・えっと・・・名前・・・・・・・・・・・・・『火の・・カニレ?』・・・・『ガニラ』・・・?・・・『ガメ・・』・・・・忘れた」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
とはまた口を開けたまま凍りつく。アキラが下を向いて、今度は皆の前で盛大にため息を吐いた。
「すみません、さん、、この男は元々こういう男なんです。一分前の事も脳に留めておけない男なんですよ」
「アキラひどい」
「ひどくないですよ!大体あなたが始めにきちんと話しておかないから!!」
アキラにまたもや軽く落とされた事に、再度、ぶぅ、と頬を膨らませ、ほたるが反論した。アキラがほたるの先程からのボケッぷりに逆上して、があっと怒鳴った。
が慌てて半立ちになり、泣きそうな顔でほたるに問い掛けた。
「だっ、だって、さっき、『殺せば?』って、じゃあ、あれはなんだったの?!どうして、あんな事っ・・!!」
「血ぃ昇ってる時に何言ったって聞かないでしょ。刺されてあげようと思って。自分で急所外すから、大丈夫」
けろりと言ったほたるに対し、アキラが冷たい口調でぼそりと付け足した。
「・・・・私が割って入るとも思ってたんでしょう」
「うん。実は。・・・ちょっと、」
「ハアァ〜・・・まったく・・」
顔も声色も、何処までも飄々としているほたるに対し、呆れ返った様子で接していたが、アキラの胸中はじんわりとした安堵に満たされていた。これで、は少しでも楽になれる・・・良かった・・・。
を視ると、畳に大粒の涙をぽろぽろと零して、俯いていた。アキラはの肩にそっと右手を置き、謝った。
「・・・、すみません。私が早合点して、ほたるの事を言わなければ・・・」
はふるふると首を振って、泣きじゃくった。
「ごめんっ・・ごめんなさいっ・・私が・・私が、アキラを信じてちゃんと宿で待っていれば・・・ごめんなさいっ・・・」
「・・・」
アキラがその場でそのまま、を強く抱きしめた。そしてその耳元で、ぼそぼそとにだけ聞こえる様な声で、何かを言い募っている。謝罪の言葉か、愛の囁きか ・・・・
その様子を見てほたるが、ぽん、と、再度弾けた様にを見て、アキラ達を指さして、言った。
「こんな感じだと、しっかり事後、って。分かる?」
アキラとの様子で、自分もそう感じていたは、まさか頷く訳にもいかず、そしてこの場でそんな事をまた無表情に言うほたるの無神経さに、赤い顔で思わずその頭を殴った。ゴン!と、小気味良い音と共に、開け放たれたままだった障子戸の横から、二谷が遠慮がちに顔を覗かせた。そしてこれまた遠慮がちに、面々に対し、へらっと笑って問い掛けた。
「・・あの、・・・さんの包帯替えたいんだけど、いいかな?」
思わぬ外野の到来に、とアキラが慌てて離れたのは言うまでもない。
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